抄録
アパルトヘイトという白人至上主義の制度化と撤廃を経た南アフリカ共和国では、黒人マジョリティ統治のもとで人種的分断と格差の是正が模索されている。アフリカ随一の経済大国でもある同国には、大陸最大の日本人コミュニティが存在し、日本では等閑視されがちな「人種問題」を巡り、共約し難い意識と経験が培われている。主に長期滞在者の協力を得てヨハネスブルグとケープタウンで行った調査からは、南アフリカ在住日本人がポストアパルトヘイト的な理想と現実に翻弄されつつ、「白人」「黒人」「カラード」「中国人」として人種化された人々の錯綜する視点に触れ、彼らとの関係性の中で「日本人」として内省する姿がうかがえる。アパルトヘイト体制下の「名誉白人」的な迎合主義は現代日本人とも無縁ではないが、南アフリカ在住者が新たな立ち位置から同国の理想の実現に貢献するとともに、その意識と経験が日本社会に還流し変化を促すことに期待したい。