抄録
本研究は、日本に生まれ育った中国人ニューカマー二世の継承語とアイデンティティ(ID)の構築・変容プロセスを明らかにするものである。具体的には、6名のニューカマー二世にライフストーリー・インタビューをおこなったのち、TEM(Trajectory Equifinality Model:複線経路・等至性モデル)を使って分析をおこなった。その結果、中国人ニューカマー二
世のアイデンティティの特徴として、言語IDの主体性、エスニックIDの複合性、役割IDの儒教性、統合IDの文化仲介性と柔軟性の4つが明らかとなった。また、アイデンティティの構築・変容プロセスには、重要な他者、移動する志向、継承語の学習、マクロな社会変化が影響していることが明らかとなった。そして、必ずしも良いとは言えない日本の継承
語学習環境の中で、継承語の学習・表出はアイデンティティと連動しており、出自に対する自尊心を背景にして、成長の過程において「できる」という自信を獲得することが大切であることが明らかとなった。