抄録
本稿の目的は、自己概念の媒介機能を検証し、自己概念を用いた文化研究の特徴について、研究デザインおよび因果推論の観点から考察することである。社会心理学的視点に立つ文化研究では、長らく被験者の国籍など属性を文化の指標と捉えた研究を行ってきた。こうしたタイプの研究は、準実験法の研究デザインに基づく調査であり、無作為配分などの操作によって、交絡変数を排除・統制を十分に行うことができない。そのため、調査結果に対して様々な解釈が可能になり、変数間の因果関係を正確に捉えることが難しくなる。被験者に操作を施せない準実験法による調査では、因果関係の推定に向けた中心的な課題は交絡変数の同定と媒介変数のモデル化になる。文化を対象に行われる同様な調査でも、媒介機能を検討することで、行為に与える社会・文化的な影響について検証することが可能になる。そして媒介機能をもつ変数として注目されるのが、本稿で触れる自己概念である。