抄録
本稿は、異文化間コミュニケーション研究者の多くが理論的・方法論的拠りどころとしてきた心理学において、「文化」という概念がこれまでいかに研究されてきたのかを、「比較文化心理学」(cross-cultural psychology)と、それとは一線を画すものとして近年大いに注目を集めている「文化心理学」(cultural psychology)の二つのアプローチを対比させながら概観する。そして、そのプロセスの中で、本特集号のテーマである「文化と媒介性」について、その着眼点を文化心理学のもつ「道具(人工物)の全集合としての文化」という前提に据えて、L.S.ヴィゴツキーの文化-歴史的理論に立ち返って議論する。ここでは、筆者がこれまで行ってきたがん告知実践の日米比較研究を引きながら、議論を具体的に進めていく。本稿を通じて、特に比較文化心理学の理論や方法を援用しながらこれまで異文化間コミュニケーション研究に携わってきた研究者が、文化心理学と比較文化心理学が理論的・方法論的にどう異なるのかを把握し、文化研究における多様性を理解する上での一助となることを目指す。