2007 年 4 巻 1 号 p. 9-14
サーベイランスとは本来は検疫における対人監視を意味したが,現在では種々の感染症の動向に関する継続的な疫学的観察を意味し,疾病監視とも呼ばれている.
19世紀において既にゼンメルワイスは,近代的な発想に基づく効果的なサーベイランスにより産褥熱(敗血症)と手洗いの関係を明らかにし,石炭酸による手洗いを行うことにより敗血症を激減させたといわれている.
Robert W. Haleyなどによれば「病院感染のサーベイランスとは,ある特定の患者集団における感染症や出来事または健康状態についての発生や分布を組織的,活動的,継続的に観察することであり,また観察された情報は定期的に分析され,その結果は知るべき人々に提供され,適切な行動がとられることを目的とするもの」であるとされる.患者の安全を保障するために結果(outcome)が改善されることをめざし,的確な観察に碁づいたデータ収集が必要であり,また単に感染率を計算するためのデータ収集でなく,その過程で医療従事者の協力関係を強化,意識を高めながら,有効なデータ提供をおこなうことが重要である.
病院感染サーベイランスの国レベルの実際の活動として,米国において病院感染の発生状況や発生率のベースラインを探るため,米国では20年以上前からnational nosocomial infection surveillance (NNIS) systemの病院感染の定義に則って参加病院から各種感染の情報提供がされている.また,わが国では日本環境感染学会が1998年より全国11施設の協力で,NNISシステムに準じた,わが国独自のJapanese nosocomial infection surveillance (JNIS)システムを構築中である.
そして,近年,各医療機関においては,さまざまな背景をもちながら感染管理担当者が中心になってNNISに準じたサーベイランスや病院独自のターゲットをもったサーベイランスが多く活発に行われはじめていると推察される.
そこで,本シンポジウムにおいて,日頃,感染管理実践に携わり病院感染サーベイランスを行っておられる方々から,実際の状況を紹介していただき,サーベイランスを病院全体の医療の質を高める視点だけでなく,一連の過程において臨床現場で個々のケアの質を高めるためにどのように生かしていけるのか討議できればと考える.