NEUROINFECTION
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会長講演
一人の免疫不全患者から学ぶウイルス感染症学: 薬剤耐性単純ヘルペスウイルス1型感染症
西條 政幸
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2020 年 25 巻 1 号 p. 1-

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抄録

【要旨】単純ヘルペスウイルス1型(herpes simplex virus-1、以下 HSV-1)によって引き起こされる疾患は 一般的に良性感染症といえるものの、造血幹細胞移植患者や原発性免疫不全患者では、HSV-1 は重篤で、かつ、慢性に経過する重篤な病態を引き起こす場合がある。大学医学部を卒業して小児科医として勉強し始めたころ、一人の原発性免疫不全症(Wiskott-Aldrich 症候群)の患者と出会った。その患者は3歳のときにHSV-1 に初感染し、再活性化に伴う口唇ヘルペスを繰り返し発症する状態になった。その当時から幸いにも抗ヘルペス薬アシクロビル(acyclovir、以下 ACV)が用いられるようになり、この患者の HSV-1 感染症はACV により治療された。しかし、ACV 治療を継続していたところ、ACV 耐性 HSV-1 による難治性 HSV-1 皮膚粘膜感染症を発症するようになった。また、この患者に対して免疫能再構築を目的に、同種骨髄移植が実施されたが、その際に重症皮膚粘病変が眼瞼部、口唇部などに出現し、ウイルス学的に調べたところ ACV 耐性 HSV-1 によることが明らかにされ、DNA ポリメラーゼ(DNApol)阻害薬フォスカルネット(foscarnet:PFA)で治療された。症状は軽快したが PFA 耐性 HSV-1 が出現した。残念ながらこの患者は移植約半年後に JC ウイルスによる進行性多巣性白質脳症によって亡くなった。この患者に関するウイルス学的検査や研究を行う過程で多くのことを学んだ。ACV 耐性 HSV-1 による新生児での脳炎を世界で初めて報告する研究にも参画し、造血幹細胞移植患者における ACV 耐性 HSV-1 感染症に関する研究を主催する機会も得た。これらの患者から多くのことを学び、多くの共同研究者に支援をいただいた。本論文では、これまでの私が行ってきた患者から学ぶ HSV-1 感染症研究について紹介する。

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© 2020 日本神経感染症学会
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