2022 年 27 巻 1 号 p. 52-
【要旨】小児では感染症がしばしば自己免疫疾患の誘因となり、病原体に対する免疫応答が自己免疫反応のトリガーになると考えられる。若年女性における抗 NMDA 受容体脳炎(NMDARE)では卵巣奇形腫をしばしば合併し、腫瘍が発現する NMDA 受容体が標的となり抗 NMDA 受容体抗体が産生されると考えられている。しかし感染症も NMDARE 発症の誘因となり、これらの感染症は自己抗体や免疫細胞の中枢神経系への浸潤を引き起こすことで発症をもたらすと推測されている。先行感染症として最もよく研究されているのは単純ヘルペス脳炎(HSE)である。HSE の 27%で自己免疫性脳炎の続発がみられ、最も頻度が高いのは NMDARE である。NMDARE は通常 HSE 罹患後3ヵ月以内に発症し、不随意運動を主徴とするなど HSE 初発時とはやや異なる症状を呈することで疑われる。4歳未満の症例では HSE と NMDARE の間隔が短く、予後が不良となる傾向がある。抗 NMDA 受容体抗体は HSE 発症時には通常陰性であり、脳炎発症後に陽転化することから、感染症が引き金となり自己抗体の産生が開始されると考えられる。ほかに日本脳炎も NMDARE の誘因となることが知られている。HSE 後の NMDARE に対しても通常の NMDARE と同様の治療が行われる。
NMDARE 症例の約半数は小児であり、また小児の NMDARE は成人とは臨床像がやや異なることから、小児を対象とした NMDARE の診断治療指針を定めようという動きが進んでいる。抗神経抗体の結果に依存せず臨床症状と一般的な検査所見だけで NMDARE を診断するための probable 診断基準が提唱されているが、この基準は小児でも問題なく適用できることが明らかになった。