NEUROINFECTION
Online ISSN : 2435-2225
Print ISSN : 1348-2718
27 巻, 1 号
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会長挨拶
会長講演
  • 吉川 哲史
    原稿種別: 会長講演
    2022 年 27 巻 1 号 p. 1-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】9 種類のヒトヘルペスウイルスのなかで、αヘルペスウイルス亜科に属する herpes simplex virus (HSV)と varicella-zoster virus(VZV)は神経親和性が強く、いずれも初感染後に知覚神経節に潜伏感染した後再活性化し皮膚粘膜病変をきたす。一方、私たちが長年主要な研究テーマとして取り組んでいる human herpesvirus 6B(HHV-6B)は cytomegalovirus と同じβヘルぺスウイルス亜科に属し、グリア細胞をはじめとしてさまざまな細胞に感染し得るが、おもにリンパ球系の細胞に強い親和性がある。初感染で突発疹を起こし、その際の合併症としては熱性けいれん、脳症などの中枢神経合併症が頻度も高く臨床的に重要な課題である。熱性けいれんに関して複雑型熱性けいれんを合併する割合が高く、さらに本症に伴う熱性けいれん重積とその後の海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんとの関連性も示唆されている。また、HHV-6B 脳症に関しては、初感染時だけでなく成人の造血幹細胞移植患者を中心にウイルス再活性化による急性辺縁系脳炎の原因となることも知られている。本稿では、第 25 回日本神経感染症学会のテーマである「pathogen と host の解析から見えてくるもの」の観点から、われわれがおもに取り組んできた HHV-6B の中枢神経病原性に関する研究を振り返ってみたい。

教育講演
  • 岩田 育子
    原稿種別: 教育講演
    2022 年 27 巻 1 号 p. 6-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】結核性髄膜炎(Tuberculous meningitis:TBM)は早期に発見し、適切な治療開始がなされれば治療可能な疾患である一方、診断にいたらない場合や治療の遅れは深刻な後遺障害や死亡にもつながる緊急医療対応が必要な疾患でもある。TBM の診断過程において必要なのは“疑う”ことだが、小児、成人の双方で初期の症状に特異性の高いものはない。無菌性髄膜炎等の比較的良性の経過をとる髄膜炎とも、症候および一般髄液所見上に差異は認めない。本項では TBM を見逃すことなく診断し、円滑に治療を実行するための要点について紹介する。

  • 浜口 毅, 山田 正仁
    原稿種別: 教育講演
    2022 年 27 巻 1 号 p. 15-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】ヒトのプリオン病は、原因不明の孤発性、プリオン蛋白(PrP)遺伝子変異を伴う遺伝性、医療行為や食品から感染した獲得性の3種類に分けられる。孤発性 Creutzfeldt-Jakob 病(sCJD)は、PrP 遺伝子多型と異常 PrP のタイプによって6型に分類される。典型的な病像を呈する MM1 型や MV1 型は、WHO 診断基準等を用いて診断が可能であるが、それ以外の型は非典型的病像を呈し、しばしば診断が困難である。近年、異常型プリオン蛋白高感度増幅法(RT-QuIC)によって微量の異常 PrP の検出が可能となり、新たに報告された国際的な診断基準では進行性の神経症候に脳脊髄液または他の臓器の RT-QuIC が陽性であればsCJD ほぼ確実例と診断できる。わが国に多い非典型例の MM2 型はその病理学的な特徴から皮質型と視床型に分けられる。MM2 皮質型は認知症以外の神経症候が乏しく、これまでに報告されている sCJD の診断基準では診断が困難である。われわれは頭部 MRI 所見を含む MM2 皮質型の新しい診断基準案を提案し、その診断基準案は感度 77.8%、特異度 98.5%であることを報告している。MM2 視床型については、頭部 MRI、脳波、脳脊髄液所見ともに特異的な異常所見が得られず、まだ臨床的に有用な診断基準は確立していないが、われわれは両側視床の糖代謝/脳血流低下を報告しており、今後多数例での検討が必要である。遺伝性プリオン病については、プリオン病を疑う神経症候があり、PrP 遺伝子に変異を認めれば診断が可能である。家族歴がない症例も多く、家族歴がない場合もプリオン病を疑ったときには PrP 遺伝子検査を行うことが重要である。わが国で多発している硬膜移植後 CJD(dCJD)は病理学的特徴から非プラーク型とプラーク型に分けられ、非プラーク型は sCJD 典型例と同様の特徴を有するが、プラーク型は非典型的な病型を呈する。プリオン病は異常 PrP を介して同種間や異種間を伝播すると考えられており、通常の殺菌法や消毒法が無効であるため、特に医療現場における感染予防の面からも、その早期診断は重要である。

  • 柳下 章
    原稿種別: 教育講演
    2022 年 27 巻 1 号 p. 22-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー
  • 菅 秀
    原稿種別: 教育講演
    2022 年 27 巻 1 号 p. 28-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】インフルエンザ菌b型(Hib)および肺炎球菌は、小児における髄膜炎、敗血症などの侵襲性細菌感染症の代表的起因菌である。これらの細菌に対するワクチンは 2011 年に入り多くの自治体で公費助成による接種が可能になり、2013 年より定期接種プログラムに導入された。ワクチン導入後に Hib および肺炎球菌による侵襲性感染症の減少が明らかとなった。肺炎球菌の血清型解析では、ワクチンでカバーされない血清型の増加が示された。またB群溶連菌(GBS)による髄膜炎は減少していない。より幅広い血清型の肺炎球菌および GBS に対応可能なワクチンの開発が待望される。今後もワクチン効果の正確な評価を行うために、分離菌血清型の変化についてのサーベイランスが重要である。

  • 谷口 清州
    原稿種別: 教育講演
    2022 年 27 巻 1 号 p. 34-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー
シンポジウム1
  • 加藤 哲久, 川口 寧
    原稿種別: シンポジウム
    2022 年 27 巻 1 号 p. 38-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】ウイルスは感染伝播の必要性から、ウイルス粒子にゲノムをパッケージングしなければならない。この生存に必須な過程を効率化するため、ウイルスはゲノムサイズを最少化させ、遺伝子重複や選択的スプライシング等の非標準的なエレメントを獲得することで、限られたゲノムに多様な遺伝情報を搭載してきた。近年、大型 DNA ウイルスである単純ヘルペスウイルス1 型(HSV-1)もまた、非標準的遺伝子をコードすることが明らかとなりつつある。本総説では、chemical proteomics を駆使した非標準的ウイルス遺伝子の解読の確立と解読した新規遺伝子産物である piUL49 の HSV-1 神経病原性への関与に関して解説する。

  • 本田 知之
    原稿種別: シンポジウム
    2022 年 27 巻 1 号 p. 45-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】ボルナウイルスは、近年、致死性脳炎を引き起こす病原体として、ヨーロッパを中心に着目されているが、その認知度は依然低いままである。致死性疾患につながるボルナウイルス感染症の脅威に備えるためには、このウイルスの基本情報を知ることが重要である。本稿では、ボルナウイルスの基本情報とヒトにおけるボルナウイルス感染症の病態を概説する。ボルナウイルスは宿主に持続感染する点が一つの特徴であり、特にその持続感染病態メカニズムについては私たちの研究成果をいくつか紹介したい。さらに、臨床家がボルナウイルス感染症を鑑別診断として考慮すべき症例を具体的に提案することで、この感染症の認知度の向上と対策に貢献できれば幸いである。

シンポジウム2
  • 佐久間 啓
    原稿種別: シンポジウム
    2022 年 27 巻 1 号 p. 52-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】小児では感染症がしばしば自己免疫疾患の誘因となり、病原体に対する免疫応答が自己免疫反応のトリガーになると考えられる。若年女性における抗 NMDA 受容体脳炎(NMDARE)では卵巣奇形腫をしばしば合併し、腫瘍が発現する NMDA 受容体が標的となり抗 NMDA 受容体抗体が産生されると考えられている。しかし感染症も NMDARE 発症の誘因となり、これらの感染症は自己抗体や免疫細胞の中枢神経系への浸潤を引き起こすことで発症をもたらすと推測されている。先行感染症として最もよく研究されているのは単純ヘルペス脳炎(HSE)である。HSE の 27%で自己免疫性脳炎の続発がみられ、最も頻度が高いのは NMDARE である。NMDARE は通常 HSE 罹患後3ヵ月以内に発症し、不随意運動を主徴とするなど HSE 初発時とはやや異なる症状を呈することで疑われる。4歳未満の症例では HSE と NMDARE の間隔が短く、予後が不良となる傾向がある。抗 NMDA 受容体抗体は HSE 発症時には通常陰性であり、脳炎発症後に陽転化することから、感染症が引き金となり自己抗体の産生が開始されると考えられる。ほかに日本脳炎も NMDARE の誘因となることが知られている。HSE 後の NMDARE に対しても通常の NMDARE と同様の治療が行われる。

    NMDARE 症例の約半数は小児であり、また小児の NMDARE は成人とは臨床像がやや異なることから、小児を対象とした NMDARE の診断治療指針を定めようという動きが進んでいる。抗神経抗体の結果に依存せず臨床症状と一般的な検査所見だけで NMDARE を診断するための probable 診断基準が提唱されているが、この基準は小児でも問題なく適用できることが明らかになった。

  • 三須 建郎
    原稿種別: シンポジウム
    2022 年 27 巻 1 号 p. 56-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】抗アクアポリン4(aquaporin 4:AQP4)抗体が発見されて以後、細胞表面抗原に対する抗体を検出することに重点が置かれる大きなパラダイムシフトがあったといえる。そのようななかで、わが国でも非ヘルペス性の自己免疫性脳炎のなかから最初に発見されることになったのが NMDA 受容体抗体関連脳炎である。以後、辺縁系脳炎において LGI1 抗体や AMPA 抗体などつぎつぎと自己抗体が報告されるにいたっている。これらの自己抗体は髄腔内で持続的に産生されることが知られ、病理学的に異所性リンパ濾胞を形成する形質細胞から持続的に産生されていることが明らかになっているが、AQP4 抗体のような補体介在性の細胞傷害はまれであり、NMDA 受容体抗体は抗体介在性に内在化させることで病原性を発揮するほか、LGI1 抗体はシナプスにおける蛋白結合を阻害することで、てんかん発作を誘発する。

  • 中島 一郎
    原稿種別: シンポジウム
    2022 年 27 巻 1 号 p. 60-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白(myelin oligodendrocyte glycoprotein:MOG)は、中枢神経の髄鞘を構成する蛋白質の一つで、髄鞘の最外層に発現する免疫グロブリン構造を有する膜蛋白質である。近年、MOG を標的とする自己抗体、MOG 抗体が中枢神経に炎症性病変を生じるうることが報告されるようになり、MOG 抗体関連疾患(MOG-IgG associated disorders:MOGAD)として新たな疾患概念が確立しつつある。

  • 中嶋 秀人
    原稿種別: シンポジウム
    2022 年 27 巻 1 号 p. 64-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】抗 N-methyl-d-aspartate 型グルタミン酸(NMDA)受容体抗体を含む神経細胞表面抗体が関与する自己免疫性脳炎の臨床スペクトラムが解明されるにつれ、自己免疫性脳炎の診断機会が著しく増加している。一般的に自己免疫性脳炎は免疫療法に良好な反応性を示すため、早期の抗体診断にもとづく免疫療法の導入が推奨され、自己免疫性脳炎の診断アルゴリズムも提唱されている。自己免疫性脳炎の診断として、抗 NMDA 受容体抗体など個々の神経細胞表面抗体の同定には cell-based assay(CBA)が有用であるが、自己免疫性脳炎の幅広い臨床スペクトラムにおいては既知の CBA が陰性のことも少なくないため、CBA の相補的検査であるラット脳凍結切片を用いた免疫染色である tissue-based assay(TBA)と初代海馬培養細胞による抗体診断を併用した神経抗体スクリーニングを含む診断アルゴリズムの構築が求められる。実際の臨床の現場においては、TBA を含む抗体スクリーニングで陽性を確認したのち CBA の結果を待たずすみやかに免疫療法を導入する治療アルゴリズムが適用できる可能性がある。近年、スペインにおける単純ヘルペス脳炎コホートを対象とした前向き追跡調査では、単純ヘルペス脳炎後 27%に自己免疫性脳炎が続発し、全例で神経細胞表面抗体が陽性であることが確認されている。単純ヘルペス脳炎を含めた神経感染症と自己免疫性脳炎の双方をあわせて理解したうえで、自己免疫性脳炎の新しい診療アルゴリズムについて考察する。

シンポジウム3
  • 河村 吉紀
    原稿種別: シンポジウム
    2022 年 27 巻 1 号 p. 70-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】ヒトヘルペスウイルス 6B(HHV-6B)は乳幼児期に好発する熱性発疹症である突発性発疹の原因病原体である。本症は熱性けいれんや急性脳症といった中枢神経系合併症の合併頻度がほかの熱性疾患にくらべて高い。脳炎、脳症に加え、近年 HHV-6B の関与が示唆されている中枢神経疾患として内側側頭葉てんかん(MTLE)がある MTLE の主要な病理所見である内側側頭葉硬化症(MTS)の発症には、小児期のけいれん重積や複雑型熱性けいれんとの関連が示唆されている。本稿では、MTLE 発症における HHV-6B の関与について最新の知見を交え概説する。

  • 豊田 一則
    原稿種別: シンポジウム
    2022 年 27 巻 1 号 p. 75-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】近年の衛生環境の変化に伴い、梅毒や結核などの脳動脈への直接感染は減った。現在での直接感染による脳卒中の代表例は感染性心内膜炎で、患者の 10〜35%に脳合併症を認める。一方で脳動脈に対する感染の間接作用として、末梢血単核球からの炎症性サイトカインの増加をはじめとする諸反応が粥状硬化を促進し脳梗塞を起こし得る。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、発生初期の報告では脳卒中を増やしたが、その後の各地からの報告では脳卒中患者が減ったとの報告が目立ち、これには受診控えなどの社会的側面が影響するとみられる。

  • 平山 正昭
    原稿種別: シンポジウム
    2022 年 27 巻 1 号 p. 80-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】パーキンソン病では、Braak らによる Lewy 小体病理が迷走神経背側核から青斑核、黒質に次第に進展するという prion-like の進展仮説から、α-synuclein の上行性伝播が病態にかかわるのではないかと考えられるようになった。prion-like の進展仮説や血行性免疫障害説に腸内細菌が関与する可能性が考えられている。しかし、すでにパーキンソン病の腸内細菌の報告は 15 報以上になるにもかかわらず結果が一致しない。本稿では、腸内細菌がパーキンソン病を発症させる原因と考えるエビデンスや腸内細菌の既報告をレビューする。

シンポジウム4
  • 大平 雅之, 髙尾 昌樹, 佐野 輝典, 瀬川 和彦, 富田 吉敏, 佐藤 和貴郎, 水澤 英洋
    原稿種別: シンポジウム
    2022 年 27 巻 1 号 p. 85-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)では、さまざまな精神・神経症状が急性期症状の回復後、長期に持続し、新たに出現することが知られるようになり、神経症候についてはCOVID-19 後神経症候群(PCNS)と呼ばれることもある。国立精神・神経医療研究センターでは 2021 年6 月より後遺症外来を開設し、このような PCNS あるいは COVID-19 後遺症の患者さんを積極的に受け入れている。当院でも嗅覚障害、記憶障害、不安、うつ状態、疲労など多彩な症候がみられ、その治療は容易ではない。今後は神経内科医を含む複数の専門科が横断的に COVID-19 の長期症状の診療にかかわることが望ましい。

基礎委員会セッション
  • 永田 典代
    原稿種別: 基礎委員会セッション
    2022 年 27 巻 1 号 p. 90-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】エンテロウイルスは小児にさまざまな神経疾患を引き起こす神経病原性ウイルスの一つである。これらの神経病原性やその病態については患者死亡例の病理や非ヒト霊長類、新生仔マウス、あるいは遺伝子改変マウスなどの動物モデルを用いて理解されてきた。われわれはさまざまな神経向性エンテロウイルスの実験的感染による麻痺発症動物モデルとコクサッキーウイルス B2 感染マウスモデルを確立し、病理学的解析を行ってきた。本稿では、これまでの動物モデルから得られた知見を紹介し、エンテロウイルス感染による多様な神経感染症の発症病理について考察する。

  • 橋口 隆生, 佐藤 裕真
    原稿種別: 基礎委員会セッション
    2022 年 27 巻 1 号 p. 99-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】麻疹(はしか)の原因である麻疹ウイルスは、パラミクソウイルス科に属する RNA ウイルスで、免疫系細胞に感染し一過性の免疫抑制を起こす。2016 年を底に世界的な流行拡大が続いており、2019 年には年間 20 万人以上の死者が出ている。また、麻疹ウイルスは低頻度ながらきわめて予後不良の亜急性硬化性全脳炎(SSPE)や麻疹封入体脳炎(MIBE)などの中枢神経系感染を起こす場合がある。したがって、現在の世界的な流行後には麻疹ウイルス関連脳炎患者の増加が懸念される。本稿では、麻疹ウイルスによる神経感染機構および感染阻害機構について、近年の研究成果を中心に概説する。

  • 林 昌宏
    原稿種別: 基礎委員会セッション
    2022 年 27 巻 1 号 p. 104-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】わが国は日本脳炎およびダニ媒介脳炎の流行地である。日本脳炎ワクチンの接種等により日本脳炎の流行は制御されているが、現在も日本脳炎ウイルスの分布状況には変化がないことが疫学的に示されている。またダニ媒介脳炎は 1995 年に初めて国内流行が発生し、これまでに5 例の報告がある。さらに海外からこれまでに、ウエストナイル熱、デング熱・出血熱、ジカ熱等の蚊媒介性ウイルスによるヒトの輸入症例が報告されている。2014 年および 2019 年にはデング熱の国内流行が発生した。デングウイルス、ジカウイルス等を媒介するヒトスジシマ蚊は本州以南に生息するため、今後も蚊媒介性ウイルス浸淫の可能性は否定できない。蚊媒介性ウイルスの発生動向にはヒト、カ、気候、環境等の要因が複雑にかかわるためその予防には疾病の理解が必須である。

ICD講習会
  • 谷口 清州
    原稿種別: ICD講習会
    2022 年 27 巻 1 号 p. 111-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー
  • 前木 孝洋
    原稿種別: IDC講習会
    2022 年 27 巻 1 号 p. 115-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】日本脳炎(Japanese encephalitis:以下 JE)は、日本脳炎ウイルス(Japanese encephalitis virus:以下 JEV)の感染によって生じる中枢神経感染症である。JE 患者から急性期に採取された髄液中からでも JEV 遺伝子が検出されることはきわめてまれであるため、JE を正確に診断するためには、急性期に採取された髄液だけでなく、急性期血清と回復期血清(ペア血清)を採取、保管しておくことが重要である。2019 年、2020 年に日本で報告された JE 患者から検出された JEV の遺伝子型はⅠ型であった。JEV Ⅴ型株が近年、中国、韓国で検出されており、日本への侵入に注意を払う必要がある。

  • 伊藤(高山) 睦代
    原稿種別: ICD講習会
    2022 年 27 巻 1 号 p. 124-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】2020 年5 月に日本では 14 年ぶりとなる狂犬病の輸入症例が発生した。患者はフィリピンで犬に咬まれてから8 ヵ月後に発症し、治療の甲斐なく約1 ヵ月後に亡くなった。狂犬病は狂犬病ウイルスにより引き起こされる致死的な神経感染症であり、世界では年間推定 59,000 人が亡くなっている。日本は 1957 年の清浄化後国内での発生はないが、これまでも 1970 年と 2006 年に計3 件の輸入症例が報告されている。狂犬病は一度発症すると有効な治療法はないが、長い潜伏期を利用して咬傷後すぐにワクチン接種を行うことにより、ほぼ100%発症を予防できる。渡航者への啓蒙活動と医療関係者への注意喚起が重要である。

会長賞
  • 諸岡 雄也, 古野 憲司, 菊野 里絵, 川向 永記, 加野 善平, 空閑 典子, 鳥尾 倫子, 安部 朋子, 水野 由美, 吉良 龍太郎
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 27 巻 1 号 p. 131-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】新生児、早期乳児の無菌性髄膜炎における FilmArray髄膜炎・脳炎パネルの有用性を検討した。発熱で受診した生後3 ヵ月未満の 152 例に髄液検査を施行し、細胞数増多 27 例、正常 125 例であった。細胞数増多 27 例中 15 例が無菌性髄膜炎と診断された。10 例は病原体陽性(全例 enterovirus:EV)、5 例は陰性であった。陽性群の抗菌薬投与日数は平均 2.4 日で、陰性群 4.8 日とくらべて有意に短かった(P<0.04)。細胞数正常 125 例中 15 例に本検査を実施し、EV1 例、human parechovirus2 例を検出した。本検査により不要な抗微生物薬を安全に減らせる可能性がある。

原著論文
  • 久保 雄器, 門前 達哉, 東井 涼夏, 吉岡 暁
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 27 巻 1 号 p. 138-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】2013 年1 月〜2020 年 12 月の7 年間に当院に入院したレジオネラ肺炎の 19 例を対象とし、レジオネラ肺炎に合併する神経症状と臨床的特徴、またそれらに対してどのような精査が行われたのかを後方視的に検討した。検討の結果、レジオネラ肺炎における神経症状および異常な画像所見は可逆的である場合が多く、脳神経専門医による神経症状の精査が行われなかった症例も少なからず存在した。そのような症例のなかには、異常な画像所見を呈する時期があったにもかかわらず看過されてきたケースが一定数あると推測され、積極的な頭部 MRI の撮像や呼吸器内科をはじめとする他科との連携は、レジオネラ肺炎における多彩な神経症状の病態解明へとつながる可能性がある。

  • 石井 雅宏, 保科 隆之, 楠原 浩一
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 27 巻 1 号 p. 143-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】2014 年4 月〜2019 年3 月に当院に入院したけいれん重積型二相性脳症患者5例の臨床経過を後方視的に検討し、罹患後に発達指数が低下した2 例と低下しなかった3 例を比較した。発達指数が低下した2 例では、初回のけいれん発作の持続時間が 60 分以上であり、その初期治療で追加の薬剤投与を必要とした。初回けいれん発作後の治療、初回けいれんから第2 相までの間隔、およびその後の治療の間に両者間で差はなかった。初回けいれんが 60 分以上持続する、もしくは初回の抗けいれん薬に抵抗性を示す場合は、後遺症が出現する可能性を念頭に置き早期に集学的治療を開始したうえで注意深く経過を観察すべきであると考えられる。

学会賞 最優秀口演賞「症例報告部門」
  • 菊辻 直弥, 形岡 博史, 嶋田 大祐, 武内 勝哉, 山岡 美奈子, 西森 裕佳子, 七浦 仁紀, 江浦 信之, 桐山 敬生, 杉江 和馬
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 27 巻 1 号 p. 148-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)投与下に発症した中枢神経系の免疫学的有害事象(immune related Adverse Events:irAE)の3 例を報告する。頸髄の脊髄炎例は ICI 中止とステロイド加療で、神経症状の改善は限定的であったが MRI 異常信号の軽減を認めた。抗 GAD 抗体が陽性で筋症状が並存し、脳 MRI で両側尾状核と淡蒼球に異常高信号を認めた脳炎例は、ICI の中止およびステロイド加療で意識障害が改善し、MRI 異常信号が消失した。無症候性の肥厚性硬膜炎を発症した例では、ICI の中止のみで硬膜の肥厚は消失した。ICI 投与下に発症した中枢神経症状に対し、ICI の中断もしくは中止を行い、重度の中枢神経障害や悪化した場合や脊髄炎例では ICI 中止に加え追加の免疫療法を検討する必要がある。

症例報告
  • 吉岡 暁, 門前 達哉, 久保 雄器, 河野 優斗, 千葉 篤郎, 内堀 歩
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 27 巻 1 号 p. 154-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】コロナウイルス(COVID-19)感染後に四肢筋力低下をきたし、Guillain-Barre 症候群(Guillain-Barre Syndrome:GBS)の診断で救命し得た症例を2 症例経験したので報告する。症例は 70 歳代と 50 歳の男性で、感冒症状出現からそれぞれ 15 日後、17 日後に四肢遠位優位の脱力が出現した。先行感染のある四肢筋力低下、腱反射消失を認めた。ICU にて気管内挿管、人工呼吸器管理とした。免疫グロブリン大量療法、単純血漿交換療法の両方を施行したが、四肢はほぼ完全麻痺にいたり、長期人工呼吸器管理となった。リハビリテーション病院に転院し、ADL は自立まで回復した。COVID-19 感染症が蔓延し、重症患者を診療する病床が不足するなかにおいても、COVID-19 感染後 GBS は重症であり、治療のための病床確保が必要である。

  • 加納 裕也, 山田 健太郎, 武藤 昌裕, 磯野 裕司, 北村 太郎, 松川 則之
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 27 巻 1 号 p. 159-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【要旨】76 歳女性、4 日前からの異常行動と左片麻痺で来院した。来院時に発熱を認め、頭部 MRI では中枢神経の線維路に沿って一部造影効果を伴った病変を認めた。血液検査での炎症反応上昇は軽度で、体幹部 CT で明らかな熱源はほかに認めず、頭部 MRI 所見から脳膿瘍、悪性リンパ腫を鑑別にあげ抗菌薬投与を開始した。入院時の血液培養から Listeria monocytogenes が検出されたが、髄液培養は陰性であり、診断確定のため脳生検を行い腫瘍性疾患が否定できたため Listeria monocytogenes 脳膿瘍と診断した。抗菌薬を約6 ヵ月間投与して髄液と頭部 MRI の所見の改善を認め、臨床的にも改善して自宅退院した。Listeria monocytogenes は中枢神経では神経線維路に沿って移動することが知られ、このような頭蓋内の特徴的な分布パターンを呈することが知られている。この特徴を認識することで本疾患の早期診断につながり転帰を改善できる可能性がある。

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