2018 年 23 巻 2 号 p. 121-126
近年,国際情勢において急速にテロリズムの脅威が高まっており,2020年東京オリンピック・パラリンピックを控え,わが国も決して対岸の火事とはいっていられない状況にある.テロリズム等の緊急対処事態が発生した際の救急医療体制は,米国では事態対処医療(TEMS; Tactical Emergency Medical Support)と呼ばれ,有事・軍事における戦術的戦傷救護(TCCC; Tactical Combat Casualty Care)がその基盤とされる.本稿ではまず事態対処医療の概要や,実際のテロで発生した傷病者の特徴について検討した上で,事態対処医療における脳神経外科医の役割の可能性について考察した.従来,災害医療において災害発生直後の現場近くで脳神経外科医がその専門性を発揮する場面は限定的と考えられている.しかしながら,脳神経外科医の特性やスキルを考慮すると,頭頚部損傷が多数発生することが予想される爆発物や銃火器を用いたテロにおける事態対処医療においては,むしろ病院前で重要な役割を果たすことが可能と考えられ,多くの脳神経外科医の事態対処医療への積極的な参加が期待される.