2020 年 25 巻 2 号 p. 211-216
くも膜下出血は診断,治療の遅れが転帰の不良につながり得る疾患であるが,時として初回受診にて診断に至らなかった症例を経験する.今回,当院で経験したくも膜下出血の症例のうち初回の医療機関受診時に診断に至らなかった症例を抽出し,初診時より診断に至った群と比較しその転帰を検討した.2013年4月から2019年10月までに当院で対象期間中に内因性くも膜下出血と診断された症例は399例あり,このうち症状出現から医療機関を受診したものの初回に診断に至らなかった症例は30例(7.5%)であった.30例の年齢の中央値は61歳,性別は女性が25例(83%)であった.初診時に頭痛を伴わない例は12例(40%)で,眼症状(動眼神経麻痺,視力障害)のために眼科を受診したり,後頚部痛のために整形外科を受診したりするなど,脳神経外科以外の診療科を受診することが18例(60%)と多く診断の遅れの要因となっていた.診断確定時のWFNS grade Iは16例(53%)と多く,正しい診断に至った群と比較して有意に軽症であった.退院時mRSも有意に良好であった一方,7例(23%)が死に至った.死亡例はday 0‒11の間に再破裂と思われる症状の急性増悪があった.くも膜下出血は軽症例や非典型的な症状の場合は診断の遅れにつながる可能性があり,早期の確定診断と治療介入が重要である.