NEUROSURGICAL EMERGENCY
Online ISSN : 2434-0561
Print ISSN : 1342-6214
25 巻, 2 号
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  • 伊井 みず穂, 奥寺 敬, 若杉 雅浩, 橋本 真由美, 奈良 唯唯子, 安田 智美
    2020 年25 巻2 号 p. 133-138
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     PNLSなど神経蘇生研修全般において,受講者は医師・看護師・コメディカル・救急隊員等と幅広く,成人学習の理論の導入が効果的な研修の実施には必須である.研修の各エレメントにおいて,知識・テクニカルスキル・ノンテクニカルスキル・シナリオといった,各コースの内容に合わせ,理解度・実施可能度を5段階で,受講直前,同直後に受講生自身が記入する受講者自己評価票を用いた.直近の2回のPNLSコースの結果,座学でのディスカッションとスキルトレーニングを行う場合,職種により内容を考慮する必要性が示唆された.受講前自己評価を把握することで,指導者がコースの難易度を調整することも可能である.また,事前学習などで知識の整理を行うシステムを構築することで,受講者が受講内容のさらなる理解を深めることができると考える.受講生自身が,自己の変化を感じ,運営側も受講生の評価を客観的に把握することで,今後の運営に反映させることが可能である.

  • 小畑 仁司
    2020 年25 巻2 号 p. 139-146
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     三次救命救急センターに搬送される患者の多くは重篤な神経傷病患者である.脳卒中や頭部・脊髄外傷など手術治療を要する狭義の脳神経外科傷病のみならず,全身痙攣重積状態やさまざまな原因による意識障害など,脳神経外科医が救急医療に関わる機会は数多い.しかしながら,救命指導医施設に常駐する脳神経外科専門医は,著者の調査では3.4%に過ぎず,10年前と比較して脳神経外科を含む神経系医師は減少している.単独型三次救命救急センターである当施設では,北米ER型のシステムとは異なり,脳神経外科医は同時に救急医であり,脳神経外科手術のみならず救急初療から重症患者のICU管理までを担当する.このシステムにより,時間的猶予のない状況,たとえば切迫脳ヘルニアや脳動脈瘤再破裂など,では迅速な判断と専門的治療が開始できる.重症神経傷病患者の集中治療においては,近年普及したさまざまなモニタリング機器を駆使して病態を把握し神経機能を保全することが転帰改善のために重要である.このためには,脳神経と集中治療の両領域に精通した専門医としての神経集中治療医(neurointensivist)の関与が望ましい.米国ではNeurocritical Care Society(NCS)がめざましく発展し,神経集中治療医が中心となって関連各診療科と各職種の協力のもとに重症神経症病患者の診療を行う体制が確立しており,患者転帰の改善に有効であったとの多くの報告がある.わが国では救急科専門医と脳神経外科専門医を併せ持つダブルボード医師が脳神経外科救急を支えてきた.脳神経外科医も救急医も減少しつつある現在,脳神経外科救急・集中治療の担い手の育成は急務である.神経蘇生研修や神経集中治療ハンズオン,あるいはNCSによる神経救急初療の教育コースであるEmergency Neurological Life Supportを起点として,神経救急・集中治療の普及と神経集中治療医の育成を期待したい.

  • —日本脳神経外科学会基幹施設および連携施設の役割—
    大里 俊明, 麓 健太朗, 原 敬二, 野呂 秀策, 上山 憲司, 瀬尾 善宣, 中村 博彦
    2020 年25 巻2 号 p. 147-150
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     臓器提供施設とは,「臓器の移植に関する法律」の運用に関する指針(ガイドライン)により,高度の医療を行う5類型に当てはまる施設とされている1,3).5類型には「日本脳神経外科学会の基幹施設又は連携施設」が含まれており,我々脳神経外科医も積極的に臓器提供に関わることが求められる.特に,脳死下臓器提供数において我が国は欧米先進国に比して少ないことが指摘されていることから,5類型に属する施設の果たす役割は大きいと思われる.今回,日本脳神経外科学会の基幹施設又は連携施設からの臓器提供の可能性について,自験例から検討した.

  • —施設管理者側の視点から—
    大里 俊明, 佐藤 憲市, 渡部 寿一, 麓 健太朗, 野呂 秀策, 野村 亮太, 山口 陽平, 大竹 安史, 浅野目 卓, 大熊 理弘, ...
    2020 年25 巻2 号 p. 151-155
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     2024年4月から厚生労働省が主導となり「医師の働き方改革」制度がスタートする.背景として,以前より勤務医の超過労働時間など劣悪な労働環境が問題視されてきたことがある.中でも脳神経外科は手術が長時間になることも少なくなく,その労働環境に関しては見過ごされてきた印象もある.「医師の働き方改革」は「地域医療構想」「医師偏在是正」とともに三位一体改革の一翼を担っており,単なる労働時間改善にとどまらない.施設管理者には,その地域での役割を果たすべく,勤務医の身体的負担を減ずるために勤務時間短縮・多職種で役割分担をするタスクシェア・タスクシフトなどの方策や,精神的負担を減ずるために暴力・ハラスメントへの組織的対応を進めるなど労働環境改善が求められる.

  • —若手への期待と今後の医師教育への期待—
    眞田 寧皓
    2020 年25 巻2 号 p. 156-159
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
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     脳神経外科領域における救急医療の範疇に含まれる疾患は,多くは外傷,脳血管障害であるが,それ以外にも様々なものが含まれる.そのため,初期研修医に脳神経外科救急を学んでもらうことは重要である.「臨床研修制度のあり方等に関する検討会」でも提言されている通り,卒前,卒後の一貫した医師養成は不可欠であるが,現在の臨床研修プログラムでは内容,時間とも不十分であると言わざるを得ない.また,脳神経外科専攻後の教育においても,high volume centerのように豊富な症例が集まるところであれば問題ないが,そうでない病院ではますます経験できる症例が限られてしまう.さらに今後の日本の人口減少を鑑みると,医師一人の経験症例数はさらに下降すると予想される.これらを打開するためには,医局単位,病院単位で研修を考えるのではなく,地域あるいは多施設共同で若手医師の修練を考えていく必要があると考える.また,限られた症例のなかで効果的に教育を行うためには,効率的な方策が求められる.その方策の一つとして指導医講習があり,そのなかで示される指導方法の一つにコーチングがある.ただコーチングを機能させるためには指導する側の努力だけでなく,指導を受ける側も自身のスキルを向上させる努力が必要である.その両者の努力をいかに引き出すかが,今後の若手教育において重要である.

  • ~小規模病院で勤務する専攻医の立場から~
    桒原 舜太郎, 内田 和孝, 沖 良春, 吉村 紳一
    2020 年25 巻2 号 p. 160-164
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     筆者は大学病院で2年間の脳神経外科研修を受けた後,後期研修の一環として病床数99床の2次医療機関で専攻医として勤務している.当科は救急診療を中心としており,筆者赴任後の9ヵ月間における受け入れ数は,救急車での来院が811例(53.3%,月平均90.1例)で,それ以外の来院が712例(46.7%,月平均79.1例)であった. これらのうち入院となったのは389例(25.5%)で,診療内容は,開頭手術13例(3.3%),血管内手術18例(4.6%),穿頭術27例(6.9%),その他9例(2.3%),保存的治療322例(82.8%)であった.筆者赴任前後で全救急患者に対する手術介入率は3.7%から4.4%へ増加し,特に赴任後の後期で5.9%であった.一方,当科の総手術件数のうち救急疾患の手術が占める割合は72%と大きく,手術件数確保には積極的な救急受け入れが欠かせないと考えられた.小規模施設では救急患者の初期診断から手術,周術期管理と一貫した診療を行うことができ,これらは基幹施設での研修では得がたいものである.基幹施設,連携・関連病院を含めてバランス良く研修することで,安全で確実な診療を行うトレーニングにつながると考える.

  • 藤田 浩二, 岩崎 安博, 宮本 恭兵, 米満 尚史, 八子 理恵, 上田 健太郎, 中尾 直之, 加藤 正哉
    2020 年25 巻2 号 p. 165-173
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     和歌山県では和歌山県立医科大学附属病院(以下,当院)に2003年1月からドクターヘリが導入され,積極的な救急医療活動を展開している.当院を起点としたドクターヘリが脳梗塞治療に寄与しているかを検証すべく,2011年7月より2017年12月の6.5年間で当院救急外来に搬送,入院に至った脳梗塞症例1479例を搬送手段別にドクターヘリ113例,救急車1039例,直接来院327例の3群に分け患者背景,治療成績を検討した.来院時年齢はドクターヘリ群(平均79.3歳)が他の2群に比し有意に高齢,病型はドクターヘリ群が脳塞栓(60.2%),直接来院群はラクナ梗塞(51.7%)が有意に高頻度であった.来院時NIHSSもドクターヘリ群(平均15.8)が他群に比し有意に高く,来院時重症であった.発症から来院までの時間はドクターヘリ群が有意に短く(平均210.3分),その結果アルテプラーゼ静注療法や急性期血行再建術の施行頻度も他群に比し有意に高かった.また和歌山県内を2次保健医療圏別に分け解析すると,ある医療圏では過半数の症例で当該医療圏内への患者病院搬送後に,当地の医師の判断で高次の治療目的に当院へのドクターヘリ搬送を要請,すなわち施設間搬送がなされていた.その一方で別の医療圏では施設間搬送依頼は極めて少なく,ほとんどが現着した初動救急救命士の判断で現場よりドクターヘリが要請されていた.このように医療圏によりドクターヘリ要請目的が大きく異なることが明らかとなった.本検討で和歌山県ドクターヘリは,遠隔地域の脳梗塞患者に対するアルテプラーゼ静注療法や血行再建術等の早期治療介入に寄与していたことがわかった.和歌山県ドクターヘリが拠点病院を核とする脳卒中診療体制を補完するには,地域毎に異なるドクターヘリ要請目的に応需する“柔軟性”の継続が重要である.

  • 伊藤 勝博, 石澤 義也, 菊池 潤, 長谷川 聖子, 佐藤 裕太, 伊藤 勝宜, 齋藤 兄治, 小笠原 賢, 矢口 慎也, 花田 裕之, ...
    2020 年25 巻2 号 p. 174-178
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震において,海を挟んだ隣県である青森県Disaster Medical Assistance Team(DMAT)調整本部では,今まで経験のないDMATの海路での移動の調整を行った.23隊(29車両)のDMATを民間フェリーによる北海道への移動を補助した.今後は海路による移動を想定した準備や訓練が必要であると考えられた.また県調整本部の運営は,脳神経外科医の連携により可能となった.災害医療に関わる脳神経外科医は増えつつあるが,特に地方においては,脳神経外科医が災害医療においても重要な役割を果たすと考えられる.

  • 岩村 拡, 中森 靖, 岩坂 壽二
    2020 年25 巻2 号 p. 179-186
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     今後予想される南海トラフ地震や首都直下型地震などの大地震では建物の倒壊現場での医療救護活動が想定され,平時から重機や搬出デバイスを用いて消防と医療チームが連携して訓練を行うことが望まれる.しかし訓練場所の確保が困難であり机上訓練にとどまっているのが現実である.

     今回,当院の解体途中の病棟を災害現場と見立てて消防と医療チームが連携して傷病者救出訓練を実施したので報告する.

  • 刈部 博, 成澤 あゆみ, 斎藤 秀夫, 西澤 威人, 亀山 元信, 中川 敦寛, 冨永 悌二
    2020 年25 巻2 号 p. 187-194
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     高齢者重症頭部外傷では受傷48時間後以降の死亡率が高く,その原因としてtalk and deteriorate(T&D)など遅発性悪化が重要とされる.今回我々は,高齢者頭部外傷におけるT&Dと凝固障害の関連等について検討したので報告する.対象は当科入院加療を行った65歳以上の頭蓋内病変を伴う頭部外傷急性期270例(M:F=154:119,79.0±8.3歳).T&D群(n=94)と非T&D群(n=176)に分け,年齢,性別,受傷機転,頭蓋内病変,Deteriorate前凝固指標・血液・生化学所見,転帰等について後方視的に比較検討した.また,受傷前抗血栓薬内服群(n=126)と非内服群(n=144)との間でT&D発生率を比較検討した.年齢,性差,受傷機転,頭蓋内病変は2群間に差を認めなかった.D‒dimerはT&D群70.0±86.2μg/mL,非T&D群28.2±50.4μg/mLで,T&D群で有意に高値だった.PT‒INRはT&D群1.39±0.90,非T&D群1.04±0.22,APTTはT&D群32.0±9.4秒,非T&D群29.3±5.9秒で,T&D群で延長していた.血小板数はT&D群16.6±6.5×104/μL,非T&D群19.5±6.5×104/μLで,T&D群で有意に少なく,血清NaはT&D群138.6±5.0 mEq/L,非T&D群140.0±4.2 mEq/Lで,T&D群で有意に低値であった.また,抗血栓薬内服群は非内服群と比較してT&Dは有意に高率に発生した.T&Dの要因となった主たる頭蓋内病態は,頭蓋内血腫の増大によるものが最も多かったものの,脳浮腫,てんかん,脳梗塞,水頭症など多岐に渡っていた.転帰はT&D群ではGR 13.0%,MD 15.2%,SD 28.3%,VS 4.3%,D 39.1%,非T&D群ではGR 77.3%,MD 10.2%,SD 9.7%,VS 1.7%,D 1.1%で,T&D群で有意に転帰不良であった.高齢者頭部外傷におけるT&Dの原因の一つとして,凝固線溶系障害や受傷前抗血栓療法が関与している可能性が示唆されると同時に,T&Dの要因は多岐に渡ることも判明した.T&D制御のアルゴリズムを確立することが喫緊の課題と考えられた.

  • 中川 敦寛, 大谷 清伸, 八木橋 真央, 佐久間 篤, Hiroaki Tomita, 刈部 博, Rocco Armonda , 久志本 ...
    2020 年25 巻2 号 p. 195-202
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     爆風損傷は爆発に伴い発生する爆風に暴露され生じる.一般の臨床医が経験する外傷機転に加えて,穿通物による機序,衝撃波を伴う圧損傷による機序が複合的に生体に影響を及ぼし,損傷が発生する.外傷初期診療ガイドラインに沿った対応を行うとともに,損傷時の状況の把握を含めて衝撃波を伴う圧損傷のリスク階層化と病態を考慮した治療を行う.通常の外傷とは異なる点があり,外科的あるいは脳血管内治療に際しては特徴を理解しておく必要がある.

     2020年東京オリンピック,パラリンピックを迎えるにあたり,わが国においても救急に携わる医療従事者,関係者も病態と診断・治療に関する一定の知識を持っていることが望ましい.本稿では,爆風損傷の機序,病態生理も含めた特徴,爆風による傷病者への初期対応を含めた診断,治療について概説する.衝撃波工学の見地から衝撃波,爆風の生体に及ぼす作用,爆風による外傷性脳損傷の発生機序,現在の爆風による外傷性脳損傷研究の問題点についても概説する.

  • 福嶋 洋, 重森 裕, 大坪 俊矢, 舘原 宗幸, 寺田 光輝, 乾 真寛
    2020 年25 巻2 号 p. 203-210
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     近年,サッカーなどのコンタクトスポーツでは,競技中に脳振盪を疑う事例が生じた場合,重大事故予防の為に競技の中断を行うことが求められている.しかし,現実には世界最高峰の大会においても脳振盪発生時に適切な対応が行われていないことが知られている.本研究では,我が国のプロサッカー競技者における頭部外傷の実態を調べる目的で,脳振盪の実態と脳振盪に関する知識を調査した.対象者は,Jリーグに所属する4チーム,97名の競技者である.脳振盪の既往は,28名のべ35回認めた.脳振盪発生回数は,1回23名,2回3名,3回2名であった.脳振盪の受傷機転は「ボールと頭」「頭と地面」「頭と頭」の順に多かった.脳振盪の発生は,高校生以上から増加している.その原因として,身長と体重増加に伴う身体的成長がサッカーにおけるインパクトの増大に関与していることが予測された.また脳振盪に関する知識は,脳振盪の既往がある者でも,不十分であることが明らかになった.脳振盪が生じた際の対応や脳振盪に関する認知を広げることが頭部外傷予防には不可欠であると考えられ,特に高校生以上の競技者や指導者に対する啓発教育や競技環境の整備が肝要である.

  • 相澤 陽太, 末松 慎也, 笹森 寛生, 丸山 啓介, 野口 明男, 塩川 芳昭
    2020 年25 巻2 号 p. 211-216
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     くも膜下出血は診断,治療の遅れが転帰の不良につながり得る疾患であるが,時として初回受診にて診断に至らなかった症例を経験する.今回,当院で経験したくも膜下出血の症例のうち初回の医療機関受診時に診断に至らなかった症例を抽出し,初診時より診断に至った群と比較しその転帰を検討した.2013年4月から2019年10月までに当院で対象期間中に内因性くも膜下出血と診断された症例は399例あり,このうち症状出現から医療機関を受診したものの初回に診断に至らなかった症例は30例(7.5%)であった.30例の年齢の中央値は61歳,性別は女性が25例(83%)であった.初診時に頭痛を伴わない例は12例(40%)で,眼症状(動眼神経麻痺,視力障害)のために眼科を受診したり,後頚部痛のために整形外科を受診したりするなど,脳神経外科以外の診療科を受診することが18例(60%)と多く診断の遅れの要因となっていた.診断確定時のWFNS grade Iは16例(53%)と多く,正しい診断に至った群と比較して有意に軽症であった.退院時mRSも有意に良好であった一方,7例(23%)が死に至った.死亡例はday 0‒11の間に再破裂と思われる症状の急性増悪があった.くも膜下出血は軽症例や非典型的な症状の場合は診断の遅れにつながる可能性があり,早期の確定診断と治療介入が重要である.

  • 青山 二郎, 稲次 基希, 石川 茉莉子, 山本 信二, 荒井 雪花, 早川 隆宣, 荻島 隆浩, 玉置 正史, 山村 俊弘, 新井 俊成, ...
    2020 年25 巻2 号 p. 217-223
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     妊婦の脳卒中に対する治療方針の決定・治療は困難を伴う.妊婦の脳卒中における背景,治療,転帰の現状を検討した.当院および関連施設で治療を行った妊婦の脳卒中全15症例(脳出血(ICH)7例,くも膜下出血(SAH)6例,脳梗塞(CI)1例,一過性脳虚血発作(TIA)1例)について後向きに検討した.妊娠初期(14週未満)に3例(ICH1例,SAH2例),妊娠中期(14週~28週未満)に8例(ICH4例,SAH2例,CI1例,TIA1例),妊娠後期(28週以降)に4例(ICH2例,SAH2例)が発症した.ICH・SAH発症の13例全例で外科治療が施行されたほか,虚血発症の2例中1例で血管内治療が施行された.脳外科手術を行い妊娠を継続した6例はいずれも妊娠中期以前に発症した症例で,児・母体共に全例救命できた.帝王切開後に脳外科手術をした4例はいずれも妊娠後期に発症した症例で,児は全例救命できたが,母体の死亡が2例あった.ICH・SAH 13例中母体の転帰良好(mRS0‒2)は7例(54%)であった.出血症例は母体の転帰不良に繫がるが,産科と連携して児の分娩方法・時期を検討し,積極的な母体への脳神経外科治療を行うことが重要であることが示唆された.

  • ~より安全な手術への取り組みとして~
    高平 良太郎, 出雲 剛, 塩崎 絵里, 近松 元気, 伊木 勇輔, 佐藤 慧, 松永 祐希, 藤本 隆史, 定方 英作, 日宇 健, 諸藤 ...
    2020 年25 巻2 号 p. 224-230
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     最先端の脳血管内治療および開頭術によっても根治困難な脳動脈瘤は依然存在しており,その治療においてはbreakthroughが待たれる.今回,治療困難な脳動脈瘤に対しての直達手術と血管内手術を組み合わせたHybrid Neurosurgeryの治療効果と安全性について検討することを目的とした.2003年4月から2017年12月までに当科で治療を行った脳動脈瘤症例合計1140例中,Hybrid Neurosurgeryにより治療を行った合計10例を対象とした.平均年齢59.9歳(27~72歳),女性8名男性2名.脳動脈瘤局在は内頚動脈6例(眼動脈分岐部2例・海綿静脈洞部4例)・椎骨動脈3例・後大脳動脈1例であった.脳動脈瘤最大径は平均18.2 mm(4.5~30 mm)であった.直達手術は6例に橈骨動脈による高流量バイパス術を,4例に浅側頭動脈もしくは後頭動脈を用いた低流量バイパス術を行い,その術後に血管内手術によるinternal trappingもしくは脳動脈瘤コイル塞栓術を行った.術後症状の悪化を1例(術前modified Rankin Scale (mRS) 0→術後mRS 1)のみに認めた.経過観察期間の中央値は123.5ヶ月(32~184ヶ月)で,全例において脳動脈瘤の完全閉塞の維持が確認された.mRS 0‒1が8例・mRS 2が1例・mRS 3が1例であった.治療困難な脳動脈瘤に対するHybrid Neurosurgeryは治療効果が高く,かつ安全な治療法であることが示唆された.

  • 須磨 健, 茂呂 修啓, 五十嵐 崇浩, 笹野 まり, 大島 秀規, 前田 剛, 渋谷 肇, 平山 晃康, 堀 智志, 木下 浩作, 吉野 ...
    2020 年25 巻2 号 p. 231-237
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     東京都こども救命センターは他の医療機関では救命治療の継続が困難な小児重篤患者を要請があれば必ず受け入れる医療機関で,都内では4施設が指定され当院は東京都23区の北部を担当している.今回,当センターに搬送された小児脳卒中症例の転帰や治療上の問題点について検討した.2013年1月から2018年12月までにこども救命搬送対象症例として搬送された脳卒中症例13例を対象とし,年齢,診断,来院時の意識レベル(JCS, 4歳までの症例は乳児JCS),治療方法,退院時の転帰などについて後方視的に検討した.平均年齢は9歳で,疾患の内訳は破裂脳動静脈奇形が6例(4例が脳内出血,2例が脳内出血と脳室内出血を合併),破裂脳動脈瘤は5例(全例くも膜下出血を認め2例が脳内出血,1例が脳室内出血を併発),原因疾患の確定困難であった脳室内出血1例,脳梗塞1例であり多くの例は出血性脳卒中であった.来院時の意識レベルの中央値はJCS 100で半昏睡例が多く,出血性脳卒中の9例で緊急手術が行われていたが,1例において手術室の関係で緊急手術が不可能で他院へ転送されていた.退院時のPediatric Overall Performance Category(POPC)はscore 1(正常):4例,score 3(中等度の障害):2例,score 4(重度の障害):2例,score 5(昏睡または植物状態):2例,score 6(死亡):3例で中央値は3であった.入院中に症状悪化した例,転帰不良例(POPC 5以上)は脳内出血,脳室内出血の血腫量が多い症例であった.

     こども救命センターにおいて搬送される症例は重症の出血性脳卒中が多く,緊急に外科的治療を行える体制を整えることが望まれる.また,脳室内出血で血腫量の多い例においては,術後病状悪化に注意が必要である.

  • 福田 真紀, 太田 剛史, 西本 祥大, 松岡 賢樹, 政平 訓貴, 岡田 憲二, 津野 隆哉, 近藤 雄一郎, 西村 裕之
    2020 年25 巻2 号 p. 238-244
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     急性期虚血性脳卒中診療において,組織プラスミノゲンアクチベータ(tPA: tissue plasminogen activator)投与や血行再建術を早期に開始することは重要である.当院では,「脳卒中スクランブル」と呼ぶ急性期脳卒中診療アルゴリズムを作成し,2015年2月より運用を開始した.脳卒中スクランブル導入後も,tPA投与,血行再建術開始までの時間をさらに短縮するために,救急外来看護師,放射線技師,血管造影室担当看護師がそれぞれ工夫を行った.また,2017年3月からはGAI2AAスケールを導入し,GAI2AAスケール3点以上であれば,CTで出血がないことを確認した後,MRIを省略して血管造影室に搬入した.この結果,tPA投与までは27分,血行再建術開始までは56分となった.救急隊から得た情報をもとにGAI2AAスケール,患者状態を予測し,受け入れ準備を行うことで,tPA投与,血行再建術開始時間の短縮ができた.

  • —コメディカルスタッフを主体とした院内体制強化について—
    岡崎 将也, 野村 達史, 笹森 大輔, 恩田 敏之, 野中 雅
    2020 年25 巻2 号 p. 245-252
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     当院では従来,血栓回収術の適応決定にMRIとCT perfusion(以下,CTP)を用いていた.しかし,再開通時間のさらなる短縮に向け,2016年1月から発症6時間以内の血栓回収術適応の患者に対して,CTとCTPで適応を決定することにした(CT/CTP対応).それに伴い,新たにCT/CTP対応のプロトコルを作成し,業務内容見直しを行うことで院内体制を強化した.Door to picture time (D2Pic) は15.8分から11.8分,Door to needle time (D2N) は33.6分から38.6分,Door to puncture time (D2P) は72.1分から39分,Door to recanalization time (D2R) は79分から64分,Puncture to recanalization (P2R) は39分から26分であり,D2P,D2R,P2Rは優位に短縮した(P<0.05).よって,血栓回収術開始時間・再開通時間の短縮において,プロトコルの活用は院内体制強化に有効的であった.

  • 田中 達也, 緒方 敦之, 岩下 英紀, 劉 軒, 正島 弘隆, 桃崎 宣明, 後藤 公文, 松永 和雄, 吉田 昌人, 本田 英一郎, 阿 ...
    2020 年25 巻2 号 p. 253-258
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     当院での90歳以上の超高齢者に対する機械的血栓回収療法の治療成績を退院時の栄養摂取経路を含め,後方視的に検討した.2015年1月から2018年12月までの期間に当院で機械的血栓回収療法を施行した症例のうち,90歳以上の超高齢者18例を対象とした.性別は男性7例,女性11例,平均年齢92.3歳,発症前mRS 3‒5 8例(44.4%)であった.閉塞部位はICA 7例(38.9%),MCA 11例(61.1%)であった.IV‒tPAは8例(44.4%)に施行され,治療内容はSR 9例(50%),stent retriever (SR)+Penumbra system 8例(44.4%),SR→経皮的血管形成術 1例(5.6%)であった.TICI2b‒3 18例(100%),来院から穿刺までに要した時間は平均67.8分,穿刺から再開通までに要した時間は平均81.4分,退院時mRS 0‒2 3例(16.7%),mRS 3‒5 15例(83.3%),mRS 6 0例(0%),退院時栄養摂取経路は経口摂取11例(61.1%)であった.90歳以上の脳主幹動脈閉塞症例に対する機械的血栓回収療法では発症前mRS3‒5の割合が高いが,高い再開通率が得られ,退院時予後良好例は少ないが,死亡例は少ない.年齢のみで適応を制限しないことが重要だが,適応を判断するために90歳以上の急性期脳梗塞症例の蓄積が必要である.

  • 田島 祐, 梅田 靖之, 青木 一晃, 寺島 美生, 亀井 裕介
    2020 年25 巻2 号 p. 259-267
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     破裂解離性椎骨動脈瘤の再出血率は高く,特に発症後24時間以内に生じることが多いとされる.その死亡率も高いことから,破裂早期に直達手術もしくは血管内治療で再出血を予防すべきであり,近年は検査から治療までの合理性と低侵襲性から血管内治療が第1選択となりつつある.当院でも2016年4月より血管内治療を第1選択としており,導入前後の治療成績を比較検討した.対象は直達手術を第一選択とした期間(前期:2004年4月から2016年3月)と血管内治療を第一選択とした期間(後期:2016年4月から2019年9月)に当院で手術加療を行った破裂解離性椎骨動脈瘤14例(前期9例,後期5例)とした.前期では9例中8例で直達手術,後期では5例中4例で血管内治療を施行した.術前WFNS(World Federation of Neurosurgical Societies)grade IV, Vの割合が前期8例(88%),後期1例(20%)と前期で多く,両期間における治療成績の比較は困難であったが,退院時mRS(modified Rankin Scale)は前期では0‒2が2例の一方で,4‒5が3例,6が4例を占めた.一方で後期ではmRS 1が3例,2と4が1例ずつであり後期で良好であった.後期の血管内治療においては,PICA(Posterior inferior cerebellar artery)distal typeに対してはinternal trapping(3例),PICA involved typeではproximal occlusion(1例)を行った.1例で術後に延髄外側梗塞を認めたが,再出血や再治療を要した症例はなかった.症例毎に検討が必要であるが,血管内治療を第1選択としてからの治療成績は比較的良好であり,血管内治療の有効性は高いことが示唆された.

  • 平田 秀喜, 笹森 大輔, 赤川 真人, 高沢 慶介, 野宮 崇史, 野中 雅
    2020 年25 巻2 号 p. 268-274
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     急性脳主幹動脈閉塞の治療の目的はペナンブラの救済であり,ペナンブラの評価は有効な血栓回収療法を行う上で重要な要素の一つである.ペナンブラの評価はMRIやCTといったモダリティを用いて行われるが,わが国では急性脳主幹動脈閉塞に対する初期画像検査としてMRIを実施している施設が多い.そこで我々はDWI‒FLAIR vascular hyperintensity mismatch(DWI‒FVH mismatch)を用いてペナンブラの評価が可能か検討を行った.2015年7月から2019年10月に急性中大脳動脈水平部(M1)閉塞があり,MRI及びCT perfusion(CTP)の撮像を行った41症例を対象とし後方視的に検討を行った.また,CTPにおけるTmax > 6 secの領域をペナンブラとして検討を行った.1)DWI‒FVH mismatchとDWI‒CTP mismatchとの比較:DWI高信号領域外にそれぞれFVH,Tmax > 6 secの領域がある場合をmismatch positive(+)とし,2群間でmismatch(+)が一致するか否かを評価した.2)中大脳動脈領域におけるFVHとTmax > 6 secの領域との比較:中大脳動脈領域の大脳皮質を7つの領域(I,M1‒M6)に分類し,それぞれFVH,Tmax > 6 secの領域がある場合をpositive(+)とし,2群間において各領域の(+)の割合が一致するか否かを評価した.3)DWI‒FVH mismatchの有無における血栓回収療法後の退院時転帰:血栓回収療法における再開通の程度をTICI(Thrombolysis in Cerebral Infarction)スコアで評価し,良好な再開通(TICI 2bまたは3)が得られた場合のDWI‒FVH mismatchの有無と退院時mRS(modified Rankin Scale)の関係を評価した.1)DWI‒FVH mismatchとDWI‒CTP mismatchとの関係は,感度94.3%,特異度66.7%であった.2)FVHとTmax > 6 secの各領域における比較では,I,M1‒M6全てにおいて(+)の割合に有意差は認められなかった.3)血栓回収療法で良好な再開通が得られ,退院時mRS 0‒2であった場合,初期画像検査のMRIにおいてDWI‒FVH mismatch(+)の割合は48.3%,DWI‒FVHmismatch negative(-)の割合は20.0%であり有意差を認めた.今回の検討より,急性中大脳動脈水平部(M1)閉塞に対してDWI‒FVH mismatchを用いることによりペナンブラの評価が可能であり良好な転帰も予測できることが示唆された.

  • —初療における超急性期全身麻酔下の脳血管撮影とその後の治療手技の選択状況—
    穂刈 正昭, 内田 和希, 新保 大輔, 月花 正幸, 浅岡 克行, 板本 孝治
    2020 年25 巻2 号 p. 275-281
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     本邦の破裂脳動脈瘤に対する治療手技選択割合は開頭術60‒70%,血管内治療30‒40%程度であるが,各施設で配分は大きく異なる.当院ではmassiveな頭蓋内血腫がない場合は速やかに全身麻酔下に脳血管撮影(DSA)を行い,安全性と根治性を総合的に考慮し治療手技を選択している.当院の初療体制と治療手技選択状況,成績を検証した.対象は脳動脈瘤破裂に対し根治的治療を行った107例.69例(64.5%)が開頭術,38例(35.5%)が血管内治療で治療された.重症例が多い割に(WFNS4‒5 55.1%)予後良好例(mRS 0‒2)は60.7%で成績は良好であった.当院搬入後から治療開始までの再破裂は4例(3.7%)でDSA待機中やDSA中の再破裂はなかった.現行の治療体制は適切と思われた.

  • 山口 巌史, 池田 尚人, 出口 義雄, 河面 倫有, 阪本 有, 保母 貴宏, 藪崎 肇, 横山 登, 井上 晴洋
    2020 年25 巻2 号 p. 282-286
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     症例は68歳,男性.歩行障害で整形外科に入院し,腰部脊柱管狭窄症の診断で椎弓切除術を施行された.術後も歩行障害が改善しないため頭部精査を行い,正常圧水頭症の診断でシャント手術方針となった.しかし術前に発熱があり,急性胆囊炎に対して胆囊摘出術を施行された.胆囊炎の軽快後に正常圧水頭症に対して脳室腹腔シャント術(以下V‒Pシャント術)を施行した.その際,術後の腸管癒着を考慮して腹腔鏡を併用した.術後の経過は良好で合併症なく症状は軽快した.腹膜炎や腹腔内手術の既往がある患者では,シャント術を施行する際に腸管癒着による腹側管の位置異常や,腹側管を留置する空間の吸収障害を考慮する必要がある.癒着が考えられる側でのV‒Pシャント術の腹側管留置時には腹腔鏡を併用した手技が有用であった.

  • 伊原 陸, 大浦 大輔, 岩﨑 素之, 新谷 好正
    2020 年25 巻2 号 p. 287-293
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     外傷性脳損傷は特に重度の場合,直後から脳の低酸素状態や灌流低下が認められる場合がある.これらは外傷後の脳浮腫や脳出血などの二次性脳損傷を発現,助長させる因子となるため,受傷時の脳の灌流を評価することは重要である.古典的な検査法としてSPECTがあるが,近年ではMRIを用いた非侵襲的で,且つ緊急時にも対応可能な灌流画像であるASLが注目されている.今回,頭部外傷患者に対して施行したASLで脳の灌流異常を初回検査時に検出できた軽症と中等症の症例を経験した.これらの症例はMRI所見から,血管壁に対する機械的損傷に伴う外傷性脳血管攣縮で脳の灌流低下を呈したと考えられた.迅速な診断と適切な治療により症状の悪化を防ぐことができた.また非侵襲的なため脳の灌流を経時的に観察でき,治療効果判定に大いに役立った.MRIにASLを付加することで外傷に伴う脳梗塞や脳出血の有無,脳血管や脳血流の評価を同時に行うことができ,これまで指摘が困難であった外傷に関する病態を可視化できるようになった.急性期の現場でASLを撮像することは極めて有用である.

  • 佐久間 潤, 蛭田 亮, 山田 昌幸, 市川 優寛, Mudathir S. Bakhit, 佐藤 拓, 藤井 正純, 齋藤 清
    2020 年25 巻2 号 p. 294-300
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     穿通性頭部外傷は箸,傘,ペンなどの日常生活用品の他に,刃物,ガラス片,ネイルガンなどの鋭利なものによっても生じる.我々は,エンジン式草刈り機の刃という比較的稀な原因による経眼窩的穿通外傷を経験したので報告する.症例は69歳男性で,草刈り機で作業中に右眼に異物が当たり,近医眼科で眼球破裂ありとのことで,walk‒inで当院救急外来を受診した.意識はJCS 2,GCS 14(E4V4M6),右視力は光覚弁であった.運動麻痺はなかった.頭部XPで右眼窩内,右頰部,右前頭葉内に複数の金属製異物を認めた.頭部CTでは左側に無症候性の慢性硬膜下血腫と右前頭葉内に3つの異物が確認できた.まず眼窩内の金属片を除去し,その後開頭によって頭蓋内異物を摘出した.異物は島回の前方にあると考えられたため,シルビウス裂を開放して経皮質的に摘出した.頭蓋内異物は骨片と欠けた草刈り機の刃であった.眼窩内異物の位置同定にはX線透視が,頭蓋内異物の位置同定にはエコーが有用であった.術後の意識はJCS 2,高次脳機能障害を認めたが徐々に快復し,mRS 2で退院した.穿通性頭部外傷は日常診療で遭遇することは稀であるが,搬入されてきた際に慌てず速やかに治療を行う体制と心構えが必要である.

  • 松本 洋明, 下川 宣幸, 佐藤 英俊, 吉田 泰久
    2020 年25 巻2 号 p. 301-305
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     頚椎黄色靱帯石灰化症は稀な疾患で,通常は緩徐に神経症状を呈するが多いが,時に急速に神経症状を呈することがある.今回我々は,急速に片麻痺を呈し,脳梗塞との鑑別が困難であった頚椎黄色靱帯石灰化症の1例を経験したので報告した.症例は89歳女性で,突然の右片麻痺と右上肢痛,頚部痛を主訴に,発症2時間で救急搬送された.頭部精査で明らかな異常は認めなかったが,超急性期脳梗塞として加療を受けた.翌日になっても脳内に異常が認められなかったため,頚椎精査を行ったところ黄色靱帯石灰症を認めた.直ちに後方除圧術を行い,神経症状および頚部痛は速やかに改善した.

  • 佐藤 英俊, 松本 洋明, 下川 宣幸
    2020 年25 巻2 号 p. 306-311
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     高齢者の増加とともに骨粗鬆症とそれに伴う脆弱性骨折は増加している.今回歯突起骨折後に環軸椎亜脱臼が進行し,外側椎間関節へのケージ挿入を併用し整復固定を行った高齢者の一例を報告する.87歳女性で,当院受診11カ月前に受傷機転不明の頚部痛が出現し,軸椎歯突起骨折(Anderson分類II型)を認めた.頚部痛を認めたが,脊髄症状は呈していなかった.前医でハローベストによる外固定を勧められたが本人が拒否したため,ソフトネックカラーでの外固定による保存的治療が行われた.当院受診2カ月前より四肢不全麻痺と歩行障害が出現し,徐々に進行した.当院受診時の画像所見では歯突起骨折は癒合せずに偽関節となり,環軸椎関節の不安定性によって頭蓋頚椎移行部で脊髄圧迫を来していた.手術治療は外側環軸椎関節に自家骨を充塡したメッシュケージを挿入することで環軸椎間の整復を行ったのち,環軸椎の螺子固定とMcGraw法による自家腸骨移植を行った.術後良好な経過を辿り独歩で退院した.環軸椎脱臼の整復方法としてはインプラントを用いて環椎を背側に挙上することによる整復が標準的だが,骨粗鬆症患者に対してはスクリューの引き抜け,新たな環軸椎骨折のリスクが懸念される.一方で外側椎間関節間のリフトアップによる整復方法はより愛護的と考える.しかし,横突孔近傍の操作に備えて椎骨動脈の走行を術前に把握し,慎重な手術操作が必要である.

  • 植木 泰仁, 堤 佐斗志, 野中 宣秀, 大倉 英浩, 鈴木 隆元, 伊藤 昌徳, 安本 幸正, 石井 尚登
    2020 年25 巻2 号 p. 312-316
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     症例は43歳男性.1か月間続く右上肢しびれ,後頭部痛を主訴とし当院救急外来受診.既往に特記事項なし.最近の体重減少,腹部症状なし.血清CA 19‒9が195.7 U/ml (0‒37) と上昇を認めたため内科で精査するも原因同定できず.頚椎MRI上C2レベルに多房性の硬膜内髄外腫瘍を認めた.腫瘍とともに脊髄腹側も線状に増強された.腰椎穿刺で少数の異型細胞が検出されるも診断に至らず.後方接近法により腫瘍摘出術施行.腫瘍周囲くも膜は顕著に白濁肥厚していた.腫瘍は全摘出され病理診断は内胚葉囊腫であった.術後交通性水頭症をきたし脳室腹腔短絡術施行.複視,めまい出現のため術後86日に頭部MRI施行したところ広範な髄膜播種所見を認めた.再度全身精査するも原発巣の特定できず.血清CA19‒9は術直後に一旦低下するも再度上昇,最終的に1515 U/mlに達した.術後108日に呼吸不全で死亡.同日剖検施行,胸部・腹部臓器所見は正常であった.一方後頭蓋窩を中心とした顕著な髄膜播種所見を認めた.播種病変の病理診断は腺癌,MIB‒1 index 25%であった.また初回手術時および剖検検体はいずれもCA 19‒9に濃染した.そのため本例では内胚葉囊腫の悪性転化と広範な髄膜播種により血清CA 19‒9が上昇したと推測した.内胚葉囊腫に髄膜増強病変を伴う場合,悪性転化を想定する必要があると思われた.

  • 長崎 弘和, 山名 慧, 成清 道久, 永尾 征弥, 壷井 祥史, 神林 智作
    2020 年25 巻2 号 p. 317-322
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     急性期脳主幹動脈閉塞症に対しては迅速性から,遺伝子組み換え組織型プラスミノゲン・アクティベータ(recombinant tissue‒type plasminogen activator: rt‒PA)ならびに血栓回収療法が標準的治療となり,発症6時間以降においても,16ないし24時間までの特定の条件をみたす症例に対して治療有効性が認められ治療可能な時間は延長し適応は拡大している.一方で,時間的な制約もあり文献的には散見されるが急性期浅側頭動脈—中大脳動脈(STA‒MCA)バイパス術の有用性は確立されていない.今回われわれは血栓回収療法無効例に対して緊急STA‒MCAバイパス術を施行し良好な経過を得たので報告する.血栓回収療法直後の急性期STA‒MCAバイパス術の報告は我々が渉猟した限りでは他に認めず,血管内治療無効例における選択肢として考慮される.

  • 田中 達也, 緒方 敦之, 劉 軒, 正島 弘隆, 岩下 英紀, 桃﨑 宣明, 後藤 公文, 松永 和雄, 吉田 昌人, 阿部 竜也
    2020 年25 巻2 号 p. 323-328
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     44歳女性.突然意識消失し,救急車を要請した.救急隊接触時,JCS Ⅲ‒300,橈骨動脈触知不能,モニター心電図にて心室細動を認めた.心肺蘇生が行われ,心拍再開し,当院へ救急搬送された.クモ膜下出血と左椎骨動脈は鎖骨下動脈分岐後よりtapering,string of beads sign,壁不整を認め,頭蓋内椎骨動脈は後下小脳動脈の近位側・遠位側にtaperingを認めた.FMDに伴うPICA分岐部を含む椎骨動脈解離によるクモ膜下出血と診断し,血管内治療による左椎骨動脈母血管閉塞を行った.mRS 2で自宅退院し,発症より21か月経過し,頭頚部MRAにて新たな血管病変は認めなかった.FMDに伴う椎骨動脈解離はアクセスルートに病変を認めることも在り注意を要するが,非FMDと同様に母血管閉塞が有効と考える.

  • 須山 嘉雄, 中原 一郎, 松本 省二, 盛岡 潤, 小田 淳平, 鈴木 健也, 長谷部 朗子, 田邉 淳, 渡邉 定克, 陶山 謙一郎
    2020 年25 巻2 号 p. 329-336
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     脳血管攣縮期にクリッピング術を行うと他の時期と比較し手術成績が悪いことは以前から報告されている.一方,血管内治療によりコイル塞栓術と血管形成術を同時に行った報告は散見され良好な転帰が得られている.今回,我々は脳血管攣縮(cerebral vasospasm: 以下CVS)を合併した中大脳動脈(middle cerebral artery: 以下MCA)破裂脳動脈瘤に対して同時治療を行った3例を経験したので報告する.症例1:60歳女性,1週間前に頭痛を自覚,左上下肢脱力と構音障害を主訴にday 8に来院した.右MCAに最大径8.1 mmの広頚の脳動脈瘤と右MCA水平部およびその遠位にCVSを認めた.来院日にコイル塞栓術と塩酸ファスジル動注および右MCA水平部に経皮的血管形成術(percutaneous transluminal angioplasty: 以下PTA)を行った.瘤頚部が残存しており,day 27にクリッピング術を行い独歩退院となった.症例2:45歳女性,後頭部痛を自覚しday 5に来院した.右MCAに脳動脈瘤および右MCA水平部にCVSを認めた.脳動脈瘤はMCA本幹を挟んで小さな上方成分と4 mmの下方成分より形成されていた.右MCA水平部にPTAを行った後,下方成分にコイル塞栓術を行った.上方成分の破裂も完全に否定はできず,day 36にクリッピング術を行い独歩退院となった.症例3:44歳男性,頭痛と嘔吐で発症しday 3に来院.左MCAに5.3 mmの脳動脈瘤と左MCA水平部にCVSを認めた.Day 6にコイル塞栓術と左MCA水平部にPTAを行った.翌日,失語と右麻痺が出現したが塩酸ファスジル動注を行い改善し,その後独歩退院となった.脳血管攣縮期におけるコイル塞栓術と脳血管攣縮に対する同時治療は有用であった.しかし,MCA瘤では血管内治療では根治しにくいことが多く,2例で段階的治療を行った結果,良好な治療成績を得ることができたので文献的考察を加えて報告する.

  • 藤原 大悟, 鵜山 淳, 森 達也, 勝部 毅, 池内 祐介, Satoshi Nakamizo, 高石 吉將, 近藤 威
    2020 年25 巻2 号 p. 337-343
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     もやもや病に合併した内頚動脈狭窄の治療は十分に検討されておらず,血管内治療の報告は少なくその治療成績は良好とは言い難い.虚血発症のもやもや病に合併した内頚動脈錐体部狭窄に対し血管内治療を施行した1例を報告する.症例は78歳男性で徐々に歩行障害が進行し,左共同偏視,失語症,右片麻痺及び左下肢麻痺を発症した.MRIで両側大脳皮質には梗塞所見は認めなかったが,内包に急性期梗塞所見を認めた.MRAで左内頚動脈,左中大脳動脈及び両側前大脳動脈の描出が不良であった.脳血管撮影では左内頚動脈錐体部に高度狭窄があり,以遠の血流が不良であり血管形成術を行うこととした.PTAを複数回行うも再狭窄及び解離所見があり,Neuroform Atlasを留置し良好な拡大形成が得られた.狭窄部以降の血流は改善したが,内頚動脈終末部以降の描出は不良でもやもや血管を認め,もやもや病或いはその類縁疾患が疑われた.治療後,症状は速やかに改善した.初回治療から1か月後にステント内に再狭窄を来しPTAを追加した.さらに3か月後に再々狭窄を来し,NeuroformAtlas内に薬剤溶出型冠動脈ステントを留置した.最終治療後虚血発作の再発無く経過しているが,血管撮影上中等度の再狭窄も認めている.もやもや病に合併した内頚動脈狭窄に対する血管内治療は再発を来しやすく,治療後の慎重な経過観察が求められる.

  • 木幡 一磨, 小野寺 康暉, 中島 まゆ, 小倉 丈司, 大森 重宏, 神山 信也
    2020 年25 巻2 号 p. 344-351
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     急性虚血性脳卒中治療において,同側血管系の遠位と近位に閉塞が存在するtandem lesionへの治療指針はcontroversialである.放射線治療由来の高度狭窄病変から発症した内頚動脈閉塞とそこから塞栓子が流れて生じたと考えられた中大脳動脈閉塞のtandem lesion病変に対して内科的治療を選択したが急性期に再発し,機械的血栓回収術(mechanical thrombectomy: MT)と頚動脈ステント留置術(carotid artery stenting: CAS)を併用し良好な転帰を得た症例を経験したので報告する.症例は60代男性で,一過性の左視野欠損消失後2時間で出現した麻痺と失語を主訴に救急搬送となった.来院時Japan Coma Scale (JCS) 3,右不全麻痺と運動性失語を認め,National Institute of Health stroke scale(NIHSS)は8点であった.左中大脳動脈島部(M2)閉塞に伴う新規脳梗塞と同側内頚動脈閉塞を認め,tandem lesion病変と診断した.脳血管撮影を行い血栓溶解療法のみ実施,翌日に神経学的脱落症状は消失した.病歴聴取で中咽頭癌放射線治療歴に由来する慢性内頚動脈狭窄が閉塞に至り血栓が末梢に流れ出て中大脳動脈を閉塞したと推測し,抗血小板薬の投与開始となった.発症4日目に突然の意識障害(JCS 20)と右完全麻痺,全失語が出現し(NIHSS: 17点),緊急実施した磁気共鳴血管画像(magnetic resonance angiography: MRA)で左中大脳動脈起始部閉塞を認めた.血管内治療を選択し,MTで頭蓋内閉塞血管を再開通させた後,頚部内頚動脈にCASを実施して良好な拡張と血流を得た.術後,運動性失語と高次機能障害が軽度残存したのみで神経症状改善し,発症より26日で転院となった.内頚動脈慢性高度狭窄から生じたtandem lesionの脳梗塞に対し,内科的治療は有効であるが急性期再発のリスクを念頭に置くべきであり,MTとCASを合併症に留意しつつ併用するのは有効な治療選択肢と考えられる.

  • 鵜山 淳, 竹内 昌孝, 小西 善史, 森 達也, 高石 吉將, 近藤 威
    2020 年25 巻2 号 p. 352-358
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     椎骨動脈(vertebral artery: VA)の後下小脳動脈(posterior inferior cerebellar artery: PICA)分岐部を含んだPICA‒involved lesionに対する治療ではPICAの温存目的で様々な試みがなされてきた.くも膜下出血で発症したPICA分岐部近傍の非典型的病変に対し血管内治療を施行した1例を報告する.症例は62歳女性で後頚部痛および嘔吐で発症し救急搬送となった.頭部CTで後頭蓋窩を中心にくも膜下出血を認めた.脳血管撮影では明らかな動脈瘤や解離病変は認めなかったが,右VAのPICA分岐部より近位でくも膜下腔と連続しない血管外への造影剤の漏出を認めた.PICA分岐部直前の右VAをballoonによる閉塞下での左VAの血管造影では血管外への造影剤の漏出が消失し,PICA‒involved lesionと同様の治療法が必要と考えられた.入院翌日に脳室ドレナージを留置後,血管内治療を施行した.PICAへの血流を温存する目的で対側の左VA経由でVA unionを越えPICAから右VA遠位までステントを留置後,PICA分岐部直前のコイルによるinternal trappingを行った.右VAからの造影剤の漏出の消失及び左VAから右PICAが逆行性に造影されることを確認し手技を終了した.術後経過は良好でmodified Rankin scale 0で自宅退院となった.本例では極小の動脈瘤や解離病変が潜在し,血管外に通じる瘻孔から仮性動脈瘤を形成している可能性を考えた.対側のVA経由でのPICAからVA遠位にステントを留置後のinternal trappingにより,病変の根治およびPICAの血流の温存に成功した.本法は周術期の血栓性合併症の問題はあるが,直達手術と比較し手術侵襲や手技の技術的な問題の点で優位性がある方法と考えられる.

  • 藤原 大悟, 原 淑恵, 高宮城 陽栄, 松山 重成, 石原 諭, 山下 晴央, 中山 伸一
    2020 年25 巻2 号 p. 359-364
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     外傷頚動脈解離に対して,ステント留置術を行った4症例を報告し,急性期抗血栓療法の適応,ステント留置術の時期について検討した.1例目は44歳男性で,第12病日に新規に内頚動脈解離を診断した.2例目は56歳男性で第1病日に高度狭窄を伴った頚動脈解離を認めた.3例目は37歳男性,第2病日に左内頚動脈解離を認めた.4例目は第1病日に左頚部打撲,急性硬膜下血腫を認め,開頭血腫除去術と外減圧術を施行した.後日頭蓋形成術を施行し自宅退院.しかし入院時からの左頚部違和感継続に対して,受傷約6ヶ月後に行った頚動脈エコー検査にて内頚動脈解離が指摘された.外傷急性期で合併外傷の出血リスクがある場合にヘパリンでの抗凝固療法を開始し,ステント留置術施行が決定してから抗血小板薬を開始し,第15病日~受傷後6ヶ月でステント留置術を行った.どの症例でも術後の脳梗塞や神経学的異常所見は認めなかった.進行性,難治性,高度狭窄を示す外傷性頚動脈解離に対してステント留置術が遅発性脳梗塞予防に有効であった.抗血栓療法は合併外傷の出血リスクに基づいて決定すべきと考えられた.

  • 鵜山 淳, 池内 佑介, 勝部 毅, 高石 吉將, 近藤 威
    2020 年25 巻2 号 p. 365-371
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     後下小脳動脈(PICA)の分岐部位は多様性があり,前脊髄動脈(ASA)と共通幹を持つ可能性がある.二重起始PICA(DOPICA)の頻度は極めて低いが,動脈瘤や解離病変形成に関与することがある.DOPICAが関与したと考えられるASA瘤に対しコイル塞栓を行った1例を報告する.症例は,83歳女性で後頭部痛を発症し,著明な項部硬直を認め当院に紹介受診となった.頭部Computed tomography(CT)でテント上に軽微なくも膜下出血を疑う所見を認め,脳血管撮影では明らかな出血源は不明で保存的加療を行った.入院後14日目に重篤な意識障害(Glasgow Coma Scale 3点)を発症し,後頭蓋窩優位の著明なくも膜下出血および重篤な水頭症の所見を認めた.脳室ドレナージを挿入後,再度脳血管撮影を行うと左椎骨動脈(VA)撮影でVA union近傍の下方に動脈瘤の描出が確認でき出血源と考えられた.動脈瘤頚部からはASAおよびPICAと考えられる血管の分岐も認めた.右VAはもう1本のPICAと考えられる分枝を終枝とし,PICA分岐部遠位とVA unionには交通が無く,2本のPICAは最終的に合流し右小脳下部に灌流しておりDOPICAと考えられた.動脈瘤に対しコイル塞栓術の方針とした.左上腕動脈穿刺を行い左VA経由でVA unionから瘤内に到達しコイル塞栓を行った.水頭症に対し脳室腹腔短絡術を施行し,mRS5で他院に転院となった.ASA瘤の発生の原因として近位のVAの閉塞による血行力学的ストレスの関与が指摘されている.本例ではDOPICAの2本の分岐部の間のVAの閉塞があり,PICAと交通のあるASAに動脈瘤が発生したと考えられた.

  • 田中 達也, 緒方 敦之, 岩下 英紀, 劉 軒, 正島 弘隆, 桃崎 宣明, 後藤 公文, 松永 和雄, 吉田 昌人, 本田 英一郎, 阿 ...
    2020 年25 巻2 号 p. 372-377
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     症例は80歳,男性.意識障害,右半身麻痺にて発症した.精査にて発症4.5時間以内の左内頚動脈閉塞による脳梗塞と診断した.rt‒PA静注療法と血栓回収療法を施行した.血栓回収療法中に突然,左上腕血圧が測定不能となった.頭蓋内血栓回収療法を優先して行い,Door to Reperfusion 148分,TICI 2bを得た.続いて左上腕動脈塞栓症に対して頭蓋内血栓回収機器を用いて血栓回収療法を行い,Onset to Reperfusion 103分で再開通を得た.脳主幹動脈閉塞と急性四肢動脈閉塞は合併する可能性があり,脳卒中診療において四肢動脈閉塞を念頭に置いた診察は重要と考える.脳主幹動脈閉塞と急性四肢動脈閉塞が合併した場合,脳組織は脆弱であるため,脳主幹動脈に対する血栓回収療法後,速やかに四肢動脈閉塞に対する加療を行うべきと考える.四肢動脈閉塞に対して頭蓋内血栓回収デバイスは有用である可能性があり,緊急時にはその使用も検討してもよいのではないかと考える.

  • 池内 佑介, 鵜山 淳, 勝部 毅, 中溝 聡, 高石 吉將, 近藤 威
    2020 年25 巻2 号 p. 378-383
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/23
    ジャーナル オープンアクセス

     AVM of the corpus callosumは脳梁に発生する稀少な動静脈シャント疾患で,若年者に脳内出血で発症することが多い.繰り返す脳室内出血の原因として報告されることもあり,脳深部の病変のため,治療に伴う合併症も多く,慎重かつ適切な治療選択が重要とされる.今回,我々は繰り返す脳室内出血で発症した高齢のAVM of the corpus callosum患者を経験し,年齢と全身状態から侵襲的な治療は不適切と判断されたため,流入動脈塞栓術とガンマナイフ治療を行い良好な成績を得た.

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