2024 年 29 巻 1 号 p. 55-62
我が国における高齢化の進行に伴い,破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血(aneurysmal subarachnoid hemorrhage; aSAH)患者も同様に高齢化し,年齢に配慮した治療方針に悩む機会が益々増加すると考えられる.今回,2013年4月から2021年12月までに当院に入院したaSAH患者491例のうち59歳以下と90歳以上を除外し,残る273例について60‒69歳(92例),70‒79歳(97例),80‒89歳(84例)の3群に分け,退院時modified Rankin scale(mRS)が0‒2を予後良好群,3‒6を予後不良群として,aSAH患者の予後不良因子および各年代における特徴を検討した.60‒69歳,70‒79歳,80‒89歳の年齢の平均および標準偏差はそれぞれ64.5±2.95歳,74.4±2.86歳,84.0±2.71歳であり,いずれの年齢層でも女性の割合が高かった.80‒89歳は60‒79歳と比較して発症前mRS 0‒2の割合が低く(p<0.001),高血圧症や虚血性心疾患を持つ割合が高く(p<0.001, p=0.041),抗血栓薬を内服している割合が高く(p=0.018),WFNS grade I‒IIIの割合が低く(p=0.027),手術を行う割合が低く(p=0.031),開頭術よりもコイル塞栓術が選択される割合が高く(p<0.001),治療の完成を達成する割合が低く(p=0.001),退院時mRS 0‒2の割合が低かった(p<0.001).単変量解析では,80歳以上,WFNS grade IV‒V,脳動脈瘤の局在診断,wide neck,非手術例が統計学的に有意な予後不良因子であり,多変量解析では80歳以上,WFNS grade IV‒Vが独立した予後不良因子であった.高齢化が深刻な我が国において80歳以上であることはaSAHの治療方針を決定する上で重要な判断材料になり得る.