栄養と食糧
Online ISSN : 1883-8863
ISSN-L : 0021-5376
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周東 英雄吉田 茂殿安藝 皎一
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1952 年 5 巻 2 号 p. 56-69

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抄録

國民榮養を保持するためには充分量の食糧を確保すると同時に諸種榮養素の構成割合を調和よく保たねばならない。從來このための一方策として白米の代りに7分搗米或は胚芽米の攝取がすすめられ, 米殼が統制されてからは, かかる米の配給が行われて現在に至つている。然し國民の白米に對する執着と憧れとは極めて強く, 量の確保が比較的容易になつて以來は, 配給された米を再び搗きなおして食膳にのぼすことが屡々行われたし, 農家の飯米は統制以後却つて白さをましてきた事實もある。7分搗米或は胚芽米と白米との榮養上の最大の相違はビタミンB1の多寡にあるが, 近頃は上記のようなことのために, 再び脚氣症その他ビタミンB1の不足缺乏に主因する疾患が増加の傾向を辿つている。
一方, ビタミンB1の化學的合成法は次第に進歩し, 最近は大工場において大量に生産し得る域に達し, 之に從つて價格も數年前に比すれば遙かに安くなつてきて, 之を米その他の食品に添加してもそれ等の價格に殆んど影響を及ぼさない程度に至つた。ここにおいて白米に合成ビタミンB1を添加して7分搗米, 胚芽米に榮養上匹敵するもの, 又はそれに優るものを造ることが可能となつたのである。添加ビタミン量は重量的にみれば食品に對して極めて僅かで, 百萬分の3とか4とか言う量であるので, 之によつて嗜好的價値を害うことは全然ない。
ビタミンB1以外の微量榮養素, 例えばビタミンB2, ビタミンA, ビタミンC等においても亦合成技術は同樣の方向を進み, 之等をも適當な食品に加えることにより, 不足榮養素を的確に補給することが可能である。然も近代榮養學の教うるところに從えば, ビタミン類については攝取量が多ければ多い程榮養は強固となり, また作業能率も増進するという。依つて所定の攝取基準量を滿たす程度に止らず, それを越えて供給する場合が生じても, 益こそあれ何等の害を伴わないわけであり, 又之によつて經濟的負擔も殆んど全く増加しない。
かかる見地よりすれば, 米のみならず國民の日常食べることの多い小麥粉, みそ, 食用油, 或は乳幼兒食品たる粉乳, 菓子等に人工的にビタミン類を添加すること, 即ち榮養強化を行つて強化食品とすることは國民保健の向上, 産業能率の増進のために寄與するところ多大と思惟され, 之が早急に實現さるるように施策を行うことは國家を發展に導く上に極めて肝要なことと信ずる。

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© 社団法人日本栄養・食糧学会
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