2022 年 1 巻 1 号 p. 12-19
脳卒中後にはPusher現象やlateropulsionなどの姿勢定位障害が出現することが知られている。姿勢定位障害の一つであるPusher現象は病巣と対側への姿勢傾斜を特徴とし、片麻痺と触圧覚および固有感覚などの障害を伴うことが多い。一方、lateropulsionは、片麻痺や触圧覚および固有感覚障害を呈さず、四肢失調、痛覚および温度覚障害などを伴い、病巣と同側へ著しい姿勢傾斜を呈する。延髄梗塞後に病巣と同惻へのlateropulsionを示す症例の報告が多いが、橋病変例の一部で病巣と対側へ傾斜する症例も報告されている。今回、我々は橋出血後に片麻痺および触圧覚と固有感覚障害を呈し病巣と対側への著しい姿勢傾斜を呈した60歳台の症例を経験した。脳画像所見および文献的知識から病巣と対側への姿勢傾斜をlateropulsionであると評価し、その評価に基づき残存する感覚機能の活用に視点をおいた理学療法を実施したところ姿勢傾斜の改善がみられた。本症例が呈した姿勢定位障害に対する理学療法の過程について報告する。