知能と情報
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ショートノート
ベイズ確率論からの判断の逸脱-認知システムの働きに影響を及ぼす攪乱要因としてのフレーミング効果-
伊藤 朋子
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2010 年 22 巻 4 号 p. 464-470

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抄録

本研究では,確率分布が既知の状況である「2段階くじびき課題」の中で出題した「ベイズ型推論課題の質問形式で問うた確率の基本的な1次的量化課題」に出現する中学生33名と大学生48名の推論様式を分析した.その結果,「ベイズ型推論課題の質問形式で問うた確率の基本的な1次的量化課題」は「基本的な1次的量化課題」よりも難しく,いわゆる「ベイズ型推論課題」よりは易しいこと,すなわち,確率論的には基本的な1次的量化で解決可能な課題であっても,また,ベイズ型推論課題の構造をもった課題であっても,それをどのようなフレーミング(枠組み)で出題するかによって課題の難しさに違いがみられることが示された.加えて,同一の判断タイプが出現したとしても,その背後にある認知的プロセスは中学生と大学生で大きく異なっている可能性が示された.エルスバーグのパラドックス(Ellsberg,1961)では,確率分布が未知であるという曖昧性が認知システムの働きに影響を及ぼす攪乱要因(Piaget,1970/2007)であったと考えられるが,本稿の課題では,課題のフレーミングが,そのような攪乱要因であったように思われる.すなわち,確率分布が未知の状況(Ellsberg,1961)において判断が期待効用理論の独立性公理から逸脱するように,本研究では,既知の状況において判断が規範的確率論から逸脱し,認知システムの働きに揺らぎが生じることが明らかになった.今後は,曖昧性の研究においても,推論様式の分析に発達的観点を取り入れることによって,最も初歩的な誤判断から最も高次の正判断に至るまでの多様な推論様式の発達過程の分析が可能になるのではないかと思われる.

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© 2010 日本知能情報ファジィ学会
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