日本薬理学雑誌
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特集:理想的な疼痛コントロールを目指す―オピオイド鎮痛薬の概念を変える最新知見―
ノシセプチン受容体を標的とした安全なオピオイド鎮痛薬の可能性
木口 倫一岸岡 史郎Mei-Chuan Ko
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2021 年 156 巻 3 号 p. 139-144

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抄録

ノシセプチン(nociceptin/orphanin FQ:N/OFQ)ペプチド(NOP)がopioid receptor-like 1受容体の内因性リガンドとして同定された後,N/OFQ-NOP受容体システム特有の生理学的意義が明らかになった.NOP受容体は,痛みや報酬などの調節を担う重要な中枢神経領域に幅広く発現している.非ヒト霊長類(non-human primate:NHP)においては,脊髄および上位脳のNOP受容体の活性化は顕著な鎮痛効果を示す.またNOP受容体の活性化は,ドパミン神経伝達を阻害し,μオピオイドペプチド(MOP)受容体の鎮痛効果を相乗的に増強する.本稿では,NOP受容体およびMOP受容体の両方にアゴニスト活性を有する二機能性リガンドの薬理作用を概説し,痛みの緩和ならびに薬物乱用の治療におけるそれらの有用性を紹介する.NOP受容体とMOP受容体を共活性化する二機能性NOP/MOP受容体「部分」アゴニスト(AT-121,BU08028,BU10038など)は強い鎮痛効果を有するにもかかわらず,痒み,呼吸抑制,嗜癖や身体的依存などのMOP受容体を介する有害作用を示さず,治療域が非常に広いことが明らかになった.さらに二機能性NOP/MOP受容体アゴニストは,オピオイドやその他の乱用薬物の報酬・強化効果を減弱させることも示されている.混合型NOP/オピオイド受容体「完全」アゴニストであるcebranopadolの臨床試験が現在進行中であり,二機能性NOP/MOP受容体アゴニストの有効性はげっ歯類やNHPのみならずヒトでも確認されている.これらの知見から,NOP受容体とMOP受容体を共活性化する化合物は,安全に使用できる新しいオピオイド鎮痛薬として有望であると考えられる.

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