2016 年 28 巻 3 号 p. 666-674
脳型の情報処理システムの実現のためには,脳神経回路網のダイナミクスを理解することが重要である.ラット海馬分散培養系においても観察される自発性神経活動は,細胞間の相互作用によって生成され,動的で複雑な時空間パターンを持つ.従って,一時的な活動阻害のあと再開した電気活動パターンの再現性は必ずしも保証されないと考えられる.そこで,分散培養神経回路網の自発活動を細胞外電位多点計測システムにより計測し,薬剤により神経活動を一時的に阻害して阻害前後で活動パターンを比較した.その結果,自発性神経電気活動頻度は増大し,活動パターンはバースト化・間歇化した後,徐々に初期の状態に復帰した.これらの結果から,一過性の活動阻害によって平衡状態が破られ,系の内部状態が変化することが確認された.神経活動から情報をデコードする際には,神経回路網電気活動の動的性質を充分考慮する必要があることが示唆された.