インプラント治療の成功率は大抵の医療機関において90%を大きく超えており,予知性の高い治療法であることに間違いはない.しかし,インプラントと天然歯は根本的に違う点があり,それを無視することはできない.歯根膜の存在である.歯根膜は鋭敏な感覚受容器であると同時に,咬合力等の負荷を顎骨に伝える際のショックアブソーバーとしての役割も果たしている.インプラントにはそのような構造はなく,咬合力は直接顎骨に伝えられ,骨伝導と咀嚼筋内の感覚受容器が代償的に機能している.しかし,感覚閾値は天然歯より高く,天然歯では10 g 程度の圧力を感知できるのに対し,インプラントでは100 g の圧力にならないと識別できないといわれている.ゆえにインプラントの咬合を付与する際には,負担過重にならないように注意すべきである.
インプラントの咬合について,Misch らの提唱するImplant-Protected Occlusion の考え方は,理論的にはインプラントの上部構造を顎口腔機能に適合させるものである.また,インプラント上部構造の咬合調整時には,歯根膜の存在を考慮しながら,噛みしめ時において天然歯とインプラントの調和のとれた咬合接触を図ることが必要である.しかし,これらの理論に対する科学的な裏付けは,未だなされてはいない.本稿では,上記のような理論に基づいて行っているインプラントの臨床について,文献による考察を加えるとともに,咬合接触に関して,シリコーン系咬合採得材料を用いた詳細な検討についても紹介する.