2018 年 31 巻 4 号 p. 289-299
徹底したプラークコントロールによって,細菌感染症であるう蝕や歯周病を予防することができても,歯根破折への対応にはいまだに苦慮する場面がしばしばある.
特に,発症した多くが抜歯となる垂直歯根破折について,アメリカの歯内療法専門医が分析したところ,破折は40代以上の上顎小臼歯および上下顎大臼歯に集中し,歯内療法の有無にかかわらず圧倒的に失活歯に多発していることが示された.日本のデータからも同様の傾向が認められ,興味深いことに,歯根破折は歯頸部からと根尖部から,ほぼ同頻度で発生していることが報告されている.
基本的に,垂直性歯根破折をきたした歯は,抜歯,あるいは破折歯根の分割抜去の対象となることは,臨床家のコンセンサスが得られているところである.一方で,歯科用マイクロスコープやコーンビームCTの導入により,垂直性歯根破折のきわめて早期の微小な亀裂段階での発見が可能となっている.このような場合には,最新の接着技術を駆使することにより,垂直性歯根破折歯を長期に保存できる症例を経験するようになってきた.ただし,保存した破折歯には,つねに再破折と,それに伴う歯周組織破壊の拡大が懸念要因として残ることも現実である.本稿では,口腔保健を長期に守る観点から,補綴治療との連携を踏まえつつ,救済すべき,あるいは救済できる垂直性歯根破折歯の要件は何かを考えたい.
また,歯根破折を回避するための最善の方策は,歯髄を保存することであることは,長年の疫学研究より明らかである.本稿の結びとして,歯髄保存のための暫間的間接覆髄についても言及したい.