抄録
腺様囊胞癌は,高頻度にみられる唾液腺悪性腫瘍のひとつであり,小唾液腺悪性腫瘍の多くを占める。小唾液腺での発生部位は,口蓋が最も多く,次いで舌,頰粘膜,口唇,口底と続く。このうち舌の小唾液腺では,85%以上が舌根部に生じ,舌前方の前舌腺由来に発生することは非常にまれとされる。今回われわれは,舌前方に生じ,前舌腺由来と考えられた腺様囊胞癌を経験したので,その概要を報告する。患者は72歳,男性,左側舌尖部から左側舌縁部に,疼痛を伴う周囲に硬結を触れる腫瘤性病変を認めた。組織生検から腺様囊胞癌と診断した後,十分な安全域を設定し,舌下腺,口底組織,オトガイ舌筋の一部を含め切除した。切除標本の病理組織学的所見は,主に篩状型の腺様囊胞癌であり,切除断端陰性であったが,神経浸潤を認めた。現在1年8か月が経過しており,明らかな機能障害はなく,局所再発,遠隔転移を認めていない。腺様囊胞癌は,神経浸潤による局所浸潤性や遠隔転移により,長期予後が不良とされているため,今後も長期的な経過観察が必要である。