抄録
今回われわれは,舌癌の術後に頸部リンパ節転移を疑い,頸部郭清を行ったが,組織学的に転移を否定された症例を経験したので報告する。症例は,60歳,女性。左側舌縁部潰瘍の精査目的に当科紹介受診となった。舌側転位した下顎左側第二小臼歯歯冠と一致して舌縁に2×3mmの白斑を伴った潰瘍を認めた。左側舌潰瘍の切除生検を行ったところ,高分化型扁平上皮癌の病理診断で切除断端は陰性であった。術後4年2か月経過したところで,同側顎下リンパ節の腫脹を認めた。造影CT検査で左顎下部に直径10mm大のリンパ節を認め,MRI検査では顎下リンパ節の他に,中内深頸リンパ節の腫大も認めた。PET-CT検査でも両リンパ節に高集積を認めた。頸部エコー検査においてもリンパ節はリンパ門の狭小化もしくは消失を認めたため,最終診断を転移リンパ節とした。根治的頸部郭清術を行い,郭清組織中の31個のリンパ節を検討したが,すべてのリンパ節に癌の転移は認めず,組織学的にはリンパ節炎の診断であった。