抄録
局所進行口腔癌の標準治療として切除可能症例に対しては根治的切除を行い,その後,病理組織学的に再発高リスク因子を認めた場合に同時化学放射線療法(concurrent chemoradiotherapy:CCRT)を行うことがNCCNガイドラインで推奨されている。これらの治療法により,近年,原発巣と頸部の局所制御率は向上してきているが,遠隔転移に対してはいまだ有効な治療法が確立されておらず,その予後は極めて不良である。今回われわれは,下顎骨中心性癌術後に蝶形骨への転移を認めた1例を経験し,遠隔転移に対する治療法やマネージメントを含めてその概要を報告する。
患者は66歳の男性で,下顎骨中心性扁平上皮癌(T4aN2cM0)に対して術前CCRT(S-1:120mg/日×4週,放射線外照射:総線量30Gy/15Fr)を施行後,気管切開術,下顎区域切除術,舌可動部亜全摘出術,左側根治的頸部郭清術,右側根治的頸部郭清術変法,腓骨皮弁による再建術を施行した。病理組織学的に両側頸部リンパ節に多発転移と被膜外浸潤を認めたため,再発高リスクと判断し,術後CCRTを行う方針とした。しかしながら,術後放射線治療用のCT検査を施行したところ,蝶形骨への転移を認めた。当院腫瘍内科と放射線科と協議の結果,CCRT(60.6Gy/22 Fr,CDDP:80mg/m2×2クール)を施行した。治療1か月後のCT検査で腫瘤のわずかな増大を認めたため,セツキシマブ併用化学療法を行う方針としたが,近医での治療を希望され,転院となった。1年2か月経過した現在,担癌生存中である。