抄録
かかりつけ歯科医院での長期メインテナンス中,下顎埋伏智歯の歯冠部に関連して生じたと考えられる高齢者の原発性骨内癌を経験したので報告する。症例は74歳の男性,右側下唇の知覚異常と右側下顎臼歯部の咬合痛を主訴に当科紹介初診となった。右側下顎第二大臼歯は挺出し,動揺度2,頰側歯肉に軽度の腫脹を認めたが排膿はなかった。パノラマX線写真で右側下顎智歯は骨性に逆生埋伏しており,単純CTで埋伏智歯の歯冠部に連続した境界不明瞭で辺縁不整な35×25mm大の腫瘤性病変を認めた。生検にて扁平上皮癌(原発性骨内癌疑い)の診断を得て,顎下部郭清術,下顎骨区域切除術,金属プレートによる顎骨再建術を行った。一般的に原発性骨内癌は囊胞様病変から悪性転化するとされるが,本症例は当科初診の8か月前に紹介元で撮影されたパノラマX線写真では異常所見は観察されず,明白な囊胞様変化を辿ることなく悪性転化し,急速に増大したと推察された。症状のない下顎埋伏智歯は経過観察されることが多いが,発育性囊胞や歯周炎などのリスクが低いと判断される高齢者の下顎埋伏智歯においても,多様な変化の可能性も念頭に置いた経過観察が肝要である。