日本口腔腫瘍学会誌
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32 巻, 4 号
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第38回日本口腔腫瘍学会総会・学術大会
シンポジウム1:「Precision Medicineの現状と未来」
  • 鵜澤 成一, 本間 義祟
    2020 年 32 巻 4 号 p. 129
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/22
    ジャーナル フリー
  • 本間 義崇
    2020 年 32 巻 4 号 p. 130-133
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/22
    ジャーナル フリー
    頭頸部がんは,複数の発生部位と多彩な組織型を有する腫瘍の総称である。化学療法の内容は組織型により異なり,同じ組織型であっても発生部位により異なる治療戦略を必要とする場合がある。本発表では,様々な頭頸部がんの治療開発の変遷と,網羅的遺伝子解析を絡めた治療開発の方向性およびその問題点について述べる。
  • 本田 一文
    2020 年 32 巻 4 号 p. 134-143
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/22
    ジャーナル フリー
    後発転移を予防する目的に補助化学療法が実施されるが,そもそも原発巣が完全に切除されているのであれば,後発転移の有無は腫瘍が持つ個性である転移活性に依存する可能性が高い。すなわち,原発巣の腫瘍個性が分子生物学的にプロファイルできれば,最適な補助化学療法に対する戦略を提供できる可能性がある。
    われわれは,高転移性の乳がん,大腸がん,卵巣がん,膵がん,肺がん,唾液腺がん,舌がんで遺伝子増幅するアクチン束状化分子ACTN4の単離を行った。ACTN4タンパク質の高発現は,がん転移に関与する細胞突起の形成を誘導する。カナダで実施された非小細胞肺がんの補助化学療法に対するランダム化比較試験のトランスクリプトームのサブグループ解析では,ACTN4の高発現グループでのみで補助化学療法の上乗せ効果が確認できた。ACTN4の遺伝子増幅を検出するFISHプローブを開発し,I期肺腺がんの転移活性を予測し,適切な補助化学療法に資するバイオマーカーの臨床開発を開始した。
    遺伝子増幅により後発転移を予測できるのは,非小細胞肺がんだけではない。口腔がんについても後発転移ハイリスク集団を同定することで,適切な治療戦略を提示できる可能性はある。本バイオマーカーの臨床的意義について紹介する。
  • 工藤 千恵
    2020 年 32 巻 4 号 p. 144-152
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/22
    ジャーナル フリー
    免疫反応にブレーキを掛ける免疫チェックポイント経路が同定されて以来,そのシグナルを遮断する阻害抗体薬が次々と臨床開発され,口腔がんを含む頭頸部がんの治療においても,良好な治療成績が報告されている。しかし,臨床エビデンスの蓄積に伴い,その有効性が一部の患者に限定的であることや,自己免疫疾患などの深刻な副作用などの問題が顕在化してきた。生体内には無数の分子や細胞が存在して相互関係を繰り返しているが,がん細胞の存在によってそのバランスを失って複雑化し,これをうまく操作してがんに抗するのは容易なことではない。免疫力を以ってがんを完全に排除するためには,免疫システムの変化のみに囚われず,その最上流に位置するがん細胞やその増殖や転移を支持する間質などのあらゆる因子について,その相互作用まで含めて総合的に深く理解することが重要である。本稿では,頭頸部がんや口腔がんなどを対象としたICI治療に関する最新の研究開発動向を基礎と臨床の両側面から総括するとともに,がんの難治性と免疫機能低下の両者を同時に制御するオンコイムノ・ドライバー分子を標的とする新たな治療戦略について紹介する。未来のがん免疫Precision Medicine創出の参考になれば嬉しく思う。
  • 杉浦 剛
    2020 年 32 巻 4 号 p. 153-158
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/22
    ジャーナル フリー
    がん治療におけるプレシジョンメディスンとは,現状では患者の層別化により個別化と治療の適正化を行うことである。病理診断以上に多くの臨床情報が必要であり,精密診断の比重は大きい。精密診断の方法としてNGSを活用したオンコパネルによる遺伝子診断が実用化され保険収載されるに至っているが,標的遺伝子に対する治療薬の不在,適応外使用の問題などにより,適切な治療にたどり着くことは稀であり,治療成績の向上に寄与するには至っていないのが現状である。もう一つの問題は,診断に用いられる組織は多くが初発の原発巣由来であることである。癌組織は多様な細胞集団から形成されており,可塑性をもち,治療の時間軸によって大きく変化しており,現状ではこれを診断することはできない。
    われわれは診断における時間軸を重視し,口腔癌の発症前から発癌,切除後の再発転移をリアルタイムに精密に診断し,治療を開始することをコンセプトに,非侵襲的精密診断法の開発を行っている。本シンポジウムでは患者の時間軸を重視した 1.うがい液による口腔潜在的悪性疾患(OPMDs)および口腔癌の超早期診断 2.血清miRNAをバイオマーカーとする口腔癌のリアルタイムモニタリング 3.口腔癌循環癌細胞の分離によるリアルタイムシングルセル解析による口腔癌精密診断と今後の可能性について報告する。
シンポジウム2:「口腔がん医療の未来へ向けたAIの活用〜医歯工・産学の融合〜」
  • 平岡 慎一郎
    2020 年 32 巻 4 号 p. 159-170
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/22
    ジャーナル フリー
    医療におけるAI(人工知能:Artificial intelligence)の導入が急速に広がりをみせている。それを可能にしたのは,医療ビッグデータを収集するデータベースの構築と,データを高速に演算処理できるGPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェアの開発,そしてなによりもDeep Learningが登場した影響である。本稿では,臨床診断および病理診断におけるAIの実用例と,データ駆動型科学の概念について紹介する。
    そして未来の口腔がん医療の発展のためには,AI技術を駆使できる次世代の医療人を育成することが重要である。
  • 〜口腔がんの画像診断支援の可能性〜
    有地 淑子, 有地 榮一郎
    2020 年 32 巻 4 号 p. 171-178
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/22
    ジャーナル フリー
    ディープラーニングの技術の発展により,歯科領域での画像診断に関する研究が進み,口腔癌や顎骨囊胞/腫瘍等の画像診断における応用例も報告されるようになった。
    本稿では,画像分類(診断),物体検出(病変の自動検出),セグメンテーション(領域抽出)や超解像処理などのディープラーニング技術と,その応用例を紹介する。
    今後,多施設共同研究や学会が主導した研究により,さらに臨床応用に向けて発展していくものと期待される。
シンポジウム3:「高齢者における口腔がん治療の適:年齢,PSに続く指標は?」
  • 田村 和夫, 上田 倫弘
    2020 年 32 巻 4 号 p. 179
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/22
    ジャーナル フリー
  • 山田 慎一, 栗田 浩
    2020 年 32 巻 4 号 p. 180-185
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/22
    ジャーナル フリー
    本邦では,70歳以上の高齢者の60%が年間に新たに癌と診断されている。老化の過程は一般に一様でなく,高齢者の評価を年齢だけに基づいて行うことは困難である。従って,高齢口腔癌患者における治療方針の決定に寄与する治療アウトカムや全身評価ツールの確立が必要である。そこで,自立期間とG8スクリーニングツールの高齢口腔癌患者における臨床的意義について検討した。標準治療を施行した進行癌症例群においては,75~79歳の年齢階級を除いて自立期間は1年未満であった。高齢者においては,自立期間は生存率と同様に,予後指標の一つとなり得る可能性が示唆された。また,G8スコアが低値の症例群では自立期間は有意に不良であった。高齢口腔癌患者におけるG8スコアの臨床的意義が示され,ECOG-PSと併用することで,予後評価に有用であることが示唆された。
  • 高橋 昌宏
    2020 年 32 巻 4 号 p. 186-192
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/22
    ジャーナル フリー
    社会の高齢化に伴い,高齢頭頸部癌患者数は多くなっている。薬物療法の進歩により頭頸部癌に用いられる抗がん薬の種類は増えており,近年ではセツキシマブ,ニボルマブ,ペムブロリズマブが承認された。臨床試験の年齢別サブグループ解析結果などを参考にして高齢者における治療方針を決定するが,暦年齢とperformance statusだけでは高齢者の個体差を評価することは難しい。高齢者機能評価によって高齢者が抱える問題点を抽出し,薬物療法の適応検討,抗がん薬の選択,投与量の設定を行うことで個々の患者に適切な治療方針を提供できる可能性がある。
シンポジウム4:「口腔表在癌の病理」
  • 柳下 寿郎, 長塚 仁
    2020 年 32 巻 4 号 p. 193-194
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/22
    ジャーナル フリー
  • —口腔外科医の立場から—
    佐藤 徹
    2020 年 32 巻 4 号 p. 195-206
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/22
    ジャーナル フリー
    舌のHigh-grade dysplasiaと筋層浸潤のない癌を舌における口腔表在癌と仮に定義した。このような病変は様々な炎症性や反応性病変との区別がときに困難である。病変を検知するための有用な手助けとなるのがヨード染色法である。病変検知の補助ツールとして狭帯域内視鏡装置,VELscope,Illumiscanなどが開発されてきた。VELscopeとIllumiscanは高感度ではあるが特異度が低い。切除された断端粘膜には高度異形成が残存してはならないが,深部マージンの幅については明確な基準は確立されていない。手術創の処理法は一次閉鎖されるか,植皮,あるいは人工物での被覆であるが,それらのいずれにも利点と欠点がある。術中の断端評価は迅速病理検査で行う。γ-glutamyltraspeptidaseを蛍光のトレーサーとして用いた新たな術中評価技法が開発され,今後の発展が期待される。上皮性異形成の程度は3段階に分けられてきたが,WHOにより2分類法が提唱された。しかしWHO,日本口腔腫瘍学会,日本頭頸部癌学会の3者の基準にはそれぞれに若干の違いがある。組織学的なDOIはAJCCの基準に基づいて引かれた水平線を元に測定するが,浸潤部に接して上皮性異形成領域,すなわち正常ではない領域が広く存在する場合には,測定値がマイナスとなってしまうことがある。このような不都合や基準の違いを修正して,口腔外科医,頭頸部外科医,そして病理医にとってより良い共通の規約の確立が望まれる。
  • —口腔癌の早期発見へ向けて—
    矢田 直美, 松尾 拡
    2020 年 32 巻 4 号 p. 207-217
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/22
    ジャーナル フリー
    口腔癌は本邦において増加しており,最初の治療として外科的切除が選択されることがほとんどで,進行癌になるとQOLが著明に低下する。そのため,口腔癌の早期発見が重要となる。患者への負担が少なく,容易に採取できる口腔擦過細胞診の需要が増えている。細胞診では,細胞採取や標本作製法により細胞判定に影響がでる。近年,液状化細胞診法の普及により細胞採取量や出血や唾液によるアーチファクトが改善されている。細胞診は利点も多いが,スクリーニング検査である限界を理解し,検査を行う必要がある。今回,口腔細胞診を判定する側から,口腔細胞診の採取法から判定までを概説し,九州歯科大学における口腔細胞診の判定と病理組織診断を比較し,有用性と限界について報告する。
  • 石川 文隆, 八木原 一博
    2020 年 32 巻 4 号 p. 218-228
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/22
    ジャーナル フリー
    口腔癌の予後を改善するためには,上皮性異形成,上皮内癌などの口腔癌早期病変を確実に診断することが重要である。口腔領域では,刺激や炎症に対する過形成,再生性変化,反応性異型上皮の出現することが多く,特に生検標本では診断に苦慮することがある。このような場合,CK13,CK17,CK19,p53,Ki-67,p40などの免疫染色を行い診断の補助とすることができる。しかしながら,反応性変化であっても腫瘍性病変と同様の染色性の変化がみられることがあるので,免疫染色結果をもとにHE染色標本を再度確認して診断を行うことが重要である。また,臨床経過や臨床所見を確認するとともに臨床医と緊密に情報交換することが正確な診断につながる。
症例報告
  • 関口 (山田) 珠希, 鄭 漢忠, 大廣 洋一, 栗林 和代, 工藤 章裕, 足利 雄一
    2020 年 32 巻 4 号 p. 229-236
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/22
    ジャーナル フリー
    今回われわれは,上顎歯肉扁平上皮癌術後に放射線照射を行い,短期間に発症した放射線誘発と考えられた肉腫の症例を経験したので報告する。症例は,55歳,男性。右側上顎歯肉腫瘍の精査目的に当科紹介受診となった。扁平上皮癌の診断で上顎部分切除術を施行したが,切除断端が近接していたため,術後放射線照射を行った。術後4年経過したところで,放射線部位の右頰部に疼痛が出現した。造影CT検査で右側上顎部に腫瘍の再発が疑われた。生検を行ったところ,未分化多形性肉腫の病理診断であり,一次がんとは組織型が異なっていた。種々の化学療法が行われたが,奏功せず,腫瘍は徐々に増大した。化学療法開始から約8か月後に永眠された。
  • 藤田 珠理, 白水 敬昌, 寺沢 史誉, 近藤 佑亮, 中尾 巧晃, 松岡 路子, 嘉悦 淳男
    2020 年 32 巻 4 号 p. 237-241
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/22
    ジャーナル フリー
    症例は76歳,女性。Down症候群にて成人知的障害施設に入寮中であった。下唇に腫瘤を自覚し,他院歯科口腔外科を受診。生検で扁平上皮癌と診断され,治療目的に当科へ紹介となった。精査の結果,下唇癌(cT1N0M0,StageⅠ)と診断し,外科的切除を施行した。現在,再発・転移なく,審美的にも機能的にも良好に経過している。
    Down症候群は白血病の発症リスクは高いが,固形癌の発症は非常に少ないとされている。
    今回われわれはDown症候群患者に生じた下唇癌を経験したためその概要を報告する。
  • 小林 亮太, 髙木 律男, 新國 農, 丸山 智, 山﨑 学, 上野山 敦士, 田沼 順一, 林 孝文, 児玉 泰光
    2020 年 32 巻 4 号 p. 243-250
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/22
    ジャーナル フリー
    かかりつけ歯科医院での長期メインテナンス中,下顎埋伏智歯の歯冠部に関連して生じたと考えられる高齢者の原発性骨内癌を経験したので報告する。症例は74歳の男性,右側下唇の知覚異常と右側下顎臼歯部の咬合痛を主訴に当科紹介初診となった。右側下顎第二大臼歯は挺出し,動揺度2,頰側歯肉に軽度の腫脹を認めたが排膿はなかった。パノラマX線写真で右側下顎智歯は骨性に逆生埋伏しており,単純CTで埋伏智歯の歯冠部に連続した境界不明瞭で辺縁不整な35×25mm大の腫瘤性病変を認めた。生検にて扁平上皮癌(原発性骨内癌疑い)の診断を得て,顎下部郭清術,下顎骨区域切除術,金属プレートによる顎骨再建術を行った。一般的に原発性骨内癌は囊胞様病変から悪性転化するとされるが,本症例は当科初診の8か月前に紹介元で撮影されたパノラマX線写真では異常所見は観察されず,明白な囊胞様変化を辿ることなく悪性転化し,急速に増大したと推察された。症状のない下顎埋伏智歯は経過観察されることが多いが,発育性囊胞や歯周炎などのリスクが低いと判断される高齢者の下顎埋伏智歯においても,多様な変化の可能性も念頭に置いた経過観察が肝要である。
  • 小林 武仁, 北畠 健一朗, 笹原 庸由, 枝松 薫, 飯野 光喜
    2020 年 32 巻 4 号 p. 251-257
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/22
    ジャーナル フリー
    先天性エプーリスは,新生児の歯肉にまれに見られる良性の限局性腫瘤で,その多くは単発性である。今回われわれは,上下顎歯肉に病変を認めた極めてまれな女児症例を経験した。
    上顎腫瘤は前歯歯槽部に存在し,有茎性で最大径25mmであった。哺乳障害の原因となっており,また,脱落による窒息が懸念されたため,出生当日,局所麻酔下に切除した。下顎腫瘤は10か月の経過観察中に,縮小し自然消失した。
    切除した上顎病変は,粘膜上皮下にN/C比の低い,PAS陽性の顆粒状の細胞質を多量に含んだ細胞の充実性増殖を認め,背景には血管の増殖を伴っていた。免疫学的検索では,vimentinは陽性だが,S-100タンパク,CD68,CD163は陰性で,顆粒細胞腫と診断した。
    先天性エプーリスは,切除後の再発例の報告はなく,自然消退する症例もあるため,新生児期の全身に対する侵襲を考慮すると,腫瘤の大きさや形態,部位,増大傾向などを合わせて各腫瘤毎に対応を検討すべきであると思われた。
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