抄録
鍍銀染色を用いて62症例の舌扁平上皮癌の生検組織における核小体形成体を検索し, AgNORsの発現状況と舌癌の臨床病理学的所見, 増殖細胞核抗原 (PCNA) および治療成績との関連性について検討した。正常舌粘膜上皮の1細胞当たりのAgNORsの平均値は1.6±02 (n=10) で, 癌組織細胞では3.6±1.1 (n=62) であり, 両者の間に有意差が認められた (p<0.0001) 。臨床病理学的所見との関連では, 平均AgNOR数は進展進行癌 (T3-T4, N1-N2, StageIII-IV) では早期癌 (T1-T2, NO, StageI-II) より高値を示した。同様に高いAgNOR数がWHOのGradeIII, び漫性浸潤, 異型度「強」の癌で算定された。また, AgNORsはPCNA LIと正の相関が認められ, 両者の間に密接な関連性が得られた (r=0.520, p<0.0001) 。予後との関連では, 平均AgNOR数は局所再発, 所属リンパ節転移の認められた群で高値であった。AgNORs低値群 (生存率: 86.0%) と比較するとAgNORs高値群では5年累積生存率は低く (63.5%) , 両者間に有意差が認められた (logrank: p=0.04) 。これらの成績からAgNORsの出現状況は舌癌の悪性度と細胞増殖能を反映することが示唆された。