抄録
15-Deoxy-Δ12, 14-prostaglandin J2 (15dPGJ2) は, peroxisome proliferator-activated receptorγ (PPARγ) のリガンドであり, 胃癌, 肺癌, 結腸癌, 前立腺癌, 乳癌といったようなヒトの様々な腫瘍のアポトーシスを誘導する.しかしながら, 白血病といったような他の癌細胞におけるPPARγのシグナル経路については, まだ解明されていない.そこで本研究において, ヒト急性リンパ芽球性白血病細胞株であるCCRF-CEM増殖能への15dPGJ2による影響について検討を行った.15dPGJ2, 5μMにおいては, 1-3日間培養後, CCRF.CEM増殖能を刺激し, 15dPGJ2, 10μM以上においては, 増殖能を抑制した.15dPGJ2の前駆体であるPGD2, PGJ2およびΔ12-PGJ2 (ΔPGJ2) 同様な増殖効果を示し, 高濃度においては増殖能を抑制した.また, P38 mitogen-activated protein kinase (MAPK) であるSB203580, およびphosphoinositide 3-kinase (PI3K) inhibitorであるLY294002は, 15dPGJ2および三種の前駆体は, CCRF-CEM増殖能抑制した.これに対し, extracellular signal-relatad kinase1/2inhibitorであるPD98059は, 15dPGJ2および三種の前駆体による増殖能に影響を与えなかった.5μMPGD2, 5μMPGJ2, 1μMΔPGJ2, 5μM15dPGJ2はCCRF-CEMにおけるcyclinAの発現を増強し, p18, p21, p27を含むCdk inhibitorの発現には影響を与えなかった.以上の結果より, PGD2, PGJ2, ΔPGJ2および15dPGJ2は, p38MAPKおよびPI3Kの活性化によってcyclinAの発現を増強させ, p38CCRF-CEM増殖能増強を誘導することが示唆される.