抄録
先天性心疾患は, ヒトにおいて最も発生頻度が高い先天異常の1つであり, 高い死亡率はいまだに世界的な問題である. 特に, 心臓流出路発生異常には重篤な疾患も多く, その病態につながる発生機序を考えることは重要である. 近年の分子発生学の進歩により, 心臓発生には複数の異なる起源の幹細胞が関与することが示唆されている. その中で, 二次心臓領域, 心臓神経堤細胞と呼ばれる2つの異なる系譜の心臓前駆細胞の相互作用が, 心臓流出路の発生に必須である. これら心臓前駆細胞の発生制御機構の理解は, 心臓流出路発生機序の解明に重要な意味を持つ. 心臓発生過程において, これらの心臓前駆細胞は数々の転写因子により制御される. 転写因子の遺伝子発現調節ネットワーク, および異なる系譜の心臓前駆細胞の発生を調節する相互作用の解明は, 複雑な心臓流出路の三次元構造の異常を示す先天性心疾患の病態を深く理解するために不可欠である.