抄録
心臓の収縮や心肥大・心不全の発症を調節するものとして,細胞内カルシウム(Ca2+)の増減が重要なカギとなっている.しかし,胎児期や幼少期などの未成熟期の心臓では,細胞内Ca2+貯蔵装置である筋小胞体(SR)の構造が成体と比べはるかに未発達であることから,どのようにCa2+による収縮調節を行っているのか不明な点が多かった.今回,特に未成熟期の心臓に高発現するCa2+結合タンパク質(Neuronal Ca2+ Sensor-1: NCS-1)に注目し,遺伝子欠損(KO)マウスを解析した結果,NCS-1が幼少期の構造的な未熟さを補う新しい心筋収縮調節タンパク質であることを見出した.詳しい解析から,NCS-1は細胞内にCa2+を放出するイノシトール三リン酸(IP3)受容体と協同してCa2+シグナルを増強させることにより,幼少期の心筋収縮に寄与することを明らかにした1~3).また,NCS-1は幼少期のみならず心肥大の際にも発現量が上昇し,心肥大を調節することがわかった.本稿では,心臓におけるNCS-1を介した細胞内シグナルとその役割について,最近の知見をもとに概説する.