2022 年 38 巻 1 号 p. 38-47
症例は生来健康の7か月女児.急性僧帽弁閉鎖不全による左心不全症状で第1病日に当院に搬送となり,第2病日に準緊急手術を行った.入院時から抗菌薬投与を開始し,入院8時間後から発熱を認めた.術中所見では僧帽弁両尖の破壊と後尖の穿孔を認め,僧帽弁の明らかな腱索断裂や疣腫は認めなかった.僧帽弁形成術が困難であったため,僧帽弁人工弁置換術を行った.血液,切除僧帽弁前尖の培養検査では細菌,真菌は陰性であったが,切除僧帽弁の病理組織像では好中球浸潤を認め,感染性心内膜炎と診断した.しかしその原因や起因菌の確定には至らなかった.乳児の急性僧帽弁閉鎖不全では,原因として感染性心内膜炎や特発性僧帽弁腱索断裂が挙げられる.本症例は発熱前に著明な弁破壊を来した感染性心内膜炎で,乳児特発性僧帽弁腱索断裂に類似して急激な臨床経過を辿った.生来健康な乳児の急性僧帽弁閉鎖不全についての治療や合併症はその原因によって異なるため,病理学的検討も含めて,注意して原因を確認しなければならない.