2024 年 40 巻 3 号 p. 215-220
内臓心房錯位症候群の中でも無脾症候群は複雑心疾患を伴うことが多い.脾臓がないため侵襲性細菌感染症発症のリスクも高く近年では予防が重要とされている.症例は7か月の女児で,鎖肛,十二指腸閉鎖,メッケル憩室に対して新生児期に手術が行われた.過去,感染に伴う喘鳴を複数回認めていた.今回,咳嗽と喘鳴が出現して症状が増悪し,深夜に顔面蒼白・チアノーゼを認め緊急入院となった.気管支喘息としてβ刺激薬吸入,ステロイド投与を行ったが症状の改善は乏しく,High-flow nasal cannula (HFNC)が必要となった.HFNC使用後,症状は徐々に改善し,入院9日目にはHFNCから離脱でき,11日目には退院となった.喘鳴の精査目的に行った造影CT検査で気管気管支,気管支狭窄を認め,腹部では脾臓を認めなかった.心エコー検査および造影CT所見からは極軽度の左右短絡を伴う心房中隔欠損,右側大動脈弓,左鎖骨下動脈起始異常が認められた.入院時の採血を再検するとHowell Jolly小体を1%認めた.複雑心疾患を伴わない無脾症候群として抗菌薬予防内服を開始した.複雑心疾患を伴わない無脾症候群が存在することを認識し,診断後は侵襲性細菌感染への予防を講じることが重要であると思われた.