抄録
外傷による歯根破折は,歯の外傷のなかで頻度が少なく,科学的研究による検証が不足しており,広くコンセンサスが得られた治療法は少ない。歯根破折の発現頻度は,全永久歯外傷の0.5~7%,全乳歯外傷の2~4%とされているが,エックス線診断の精度を高めた最近の研究はその値より多い可能性を示唆している。歯根破折の治癒のメカニズムは未解明な点が多いが,永久歯では硬組織形成を伴う治癒を目標に治療すべきである。その対応としては,破折部を密着させる整復処置と,破折部が振動しないようしっかりとした固定が原則である。固定期間は,IADT のガイドラインでは4 週間が推奨されているが,硬組織による治癒を目指すならエックス線写真で硬組織形成の兆候が確認されるまで,固定期間を延長すべきである。一方,乳歯の歯根破折では,原因は不明であるが硬組織形成を伴う治癒が生じないようである。したがって,乳歯では変位や動揺のない場合は無処置でよく,根尖側破折片は生理的に吸収される。変位や動揺がある場合は,いくら長期に固定しても硬組織形成を伴う治癒は生じず,IADT のガイドラインでは抜歯が推奨されている。しかし,低年齢の小児においては,歯の喪失による形態的,機能的および精神的な発育への影響が大きいため,後継永久歯の交換間際までの長期固定による歯根破折乳歯の保存を試みる価値は高いと考える。