著者らは上唇小帯の切除に対する治療方針決定の一助となることを目的に,3歳から5歳の園児197名を対象に,上唇小帯の形態と付着位置の変化に関する1年間の追跡調査を行ったところ,以下の結論を得た。
1.調査期間群別のⅠ型と病型の変化について,5歳から6歳の時期において病型→Ⅰ型の割合が有意に多かった。
2.Ⅰ型から変化した病型の内訳では,合計ではⅡ型へ変化した割合が73.3%と最も高く,次いでⅢ型が20.0%であった。また,Ⅴ型とⅥ型への変化は認められなかった。
3.各病型からⅠ型へ変化した内訳では,合計ではⅢ型から変化した割合が41.7%と最も高く,次いでⅡ型からが37.5%であった。また,Ⅵ型からの変化は認められなかった。
Ⅰ型から変化した病型の内訳より,5歳から6歳の時期に転換期が存在することの可能性が示唆された。さらに,Ⅰ型,Ⅱ型およびⅢ型は比較的容易に相互間を変化するが,Ⅰ型からⅤ型やⅥ型への変化がほとんど認められなかったことから,乳歯列期から認められるⅤ型とⅥ型は,上顎の永久前歯交換期に認められる正中離開や歯の萌出障害の原因となり得るため,口腔機能の発達に影響を及ぼす可能性があることを念頭に対応することが肝要である。
近年,情報通信技術の発展に伴い,身の回りのモノとインターネットが繋がるIoTデバイスが急速に普及し,生活習慣化をサポートするツールとしての活用が広がっている。本研究では,子供用IoT歯ブラシを継続的に使用することで,子供の意識や技術ならびに子供の歯みがき行動に対して保護者が抱える不安がどのように変化するかをアンケート調査により検証し,以下の結果を得た。
1. 保護者からみた子供の歯みがき技術に関しては,子供用IoT歯ブラシを構成するデバイス機能の有無に関わらず,継続した親子での歯みがきにより9割を超える子供が歯ブラシを口腔内全体で動かせると回答した。
2. 子供の歯みがきに対する意識に関しては,歯ブラシに装着されるデバイス,画面および音声ナビゲーションの機能等が付いたデバイス用アプリで構成された被験品の使用で,約7割の子供が保護者からの声かけがなくても自ら歯みがきを始める行動をとるようになったと回答した。
3. 保護者の歯みがきに対する不安に関しては,前述の被験品を使用した約9割の保護者が,継続的な使用により将来的な子供の歯みがきに対して,不安が軽減されると回答した。
以上より,子供用IoT 歯ブラシの使用により,子供自ら歯みがきを始める習慣が身に付き,子供の歯みがき技術の上達が期待できることから,親の不安軽減に繋がる可能性が示唆された。
高次医療機関である北海道大学病院の小児・障害者歯科外来の実態とその時代に伴う変化について把握することを目的に当外来における2016年から5年間の新規来院患者の実態を調査し,以下の結論を得た。
1.1年間の平均新規来院患者数は338名であり,年によって若干の差が認められた。男性が57.1%,女性が42.9%を占め,性差が認められた。
2.初診時の年齢は4~7歳にピークを認めた。
3.主訴はむし歯・歯痛が46.8%と最も多かった。
4.新規来院患者の居住地域は札幌市内が74.1%を占めたが,隣接市町村や100km以上離れた地域からの患者も認められた。
5.既往疾患を有する患者の割合は41.1%であった。疾患の内容としては精神・行動の障害を有する患者が最も多かった。
6.行動変容法を含む通法通りの診療を行った患者は71.8%であり,それ以外は体動抑制や全身麻酔下での診療が必要であった。全身麻酔下での年間平均症例数は既報と比較して増加傾向であった。
7.紹介患者は80.3%であり,既報と比較して割合が増加していた。歯科医院からの紹介が大多数であったが,医科や他の医療施設からの紹介も認められた。
以上のことから,高次医療機関の小児・障害者歯科として,さまざまな症例に対応するための専門的な知識・技術を有すること,また,医科歯科連携の重要性の高まりなど,時代とともに変化していく医療体制や小児・障害者歯科のニーズに応じることの必要性が示唆された。
下顎右側第一乳臼歯部に切歯様歯冠形態の過剰歯がみられた8歳10か月の男児を担当した。
初診時の咬合発育段階はHellman ⅢA期を呈し,下顎右側第一乳臼歯部に歯冠形態異常の歯が確認できた。歯冠形態異常の歯の歯冠は下顎切歯様形態を呈し,3/4が萌出していた。歯冠色は下顎の切歯と近似していた。
デンタルエックス線画像およびパノラマエックス線画像で単根の過剰歯であることが確認でき,直下に第一小臼歯の歯冠が確認できた。その他の歯数異常はみられなかった。
CBCT画像では過剰歯の歯根は完成途中であり,根尖は第一小臼歯の近心方向に向いていることが確認できた。
下顎右側第一小臼歯の歯冠は完成し,過剰歯は右側第一小臼歯の萌出障害をきたしていることから抜去適応となった。
術後3か月後に撮影したパノラマエックス線画像では,初診時に比べ下顎右側第一小臼歯が萌出方向に向き始めていることが確認でき,新たな過剰歯の発現はみられなかった。
術後も定期的に歯の萌出状態を確認し,適時エックス線検査で経過を確認する必要性があると考えられた。