小児歯科学雑誌
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最新号
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総説
  • 星川 聖良
    原稿種別: 総説
    2023 年 61 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2023/02/25
    公開日: 2024/02/25
    ジャーナル 認証あり

    間葉系幹細胞は脱落乳歯からの非侵襲的採取も可能であり,再生医療の細胞供給源として注目されている。しかし,臨床応用の際,採取細胞の分化能の差異など不均一性が問題となる。本研究では,歯科領域で多くの疾患が生じる骨に着目し,均一で効率的な再生療法の確立を目的に解析を行った。近年,多発性骨髄腫の治療薬であるプロテアソーム阻害剤の副次的作用として病変部の骨量改善が報告されている。このことから,本研究ではプロテアソーム依存的な骨芽細胞分化シグナル変動に着目した。その中で,骨芽細胞分化に必須の転写因子で歯の発生にも重要なOsterix(Osx/Sp7)に焦点を当て,その調節機構と細胞分化への関与を解折し以下の知見を得た。

    1. 低濃度BMP(Bone morphogenetic protein)とプロテアソーム阻害剤同時処理時に相乗的な骨芽細胞分化亢進と翻訳後修飾依存的Osxタンパク質安定化が生じる。

    2.ユビキチンプロテアソーム機構の中で,SCFFbw7複合体がOsxのE3リガーゼとして機能する。

    3.リン酸化酵素p38が,SCFFbw7とOsxの結合を誘導する。

    4. p38選択的阻害剤処理細胞,Fbw7ノックダウン間葉系幹細胞,Fbw7ノックアウトマウス由来骨芽前駆細胞において,Osxタンパク質の蓄積と細胞分化亢進が生じる。

    5. Osxノックアウト細胞でp38リン酸化部位不活化Osx変異体を発現させた場合,野生型Osxと比較し,有意な骨芽細胞分化亢進が生じる。

    以上より,Fbw7/p38経路を介したOsx調節,骨芽細胞分化抑制を介して骨代謝調節機構の一部として機能していることが示された。

  • 鈴木 到
    原稿種別: 総説
    2023 年 61 巻 1 号 p. 10-17
    発行日: 2023/02/25
    公開日: 2024/02/25
    ジャーナル 認証あり

    初期付着菌であるActinomyces orisは菌体表層に発現している線毛を介して,歯面への付着やバイオフィルム形成を行う。多くの口腔細菌は,増殖時に短鎖脂肪酸(SCFAs:Short-chain fatty acids)を代謝産物として産生している。このSCFAsはヒトの唾液中や歯垢中からも検出される。これまでに,SCFAsがActinomyces naeslundii のバイオフィルム形成や初期付着・凝集を促進させることが明らかとなっている。しかしながら,SCFAsとA. orisとの関係性については明らかとなっていない。そこで本研究では,A. orisのバイオフィルム形成および初期付着・凝集に対するSCFAsの影響について,A. orisが有する線毛とSCFAsの関係も含めた検討を行った。結果として,SCFAsの酪酸とプロピオン酸は,A. orisのFimA依存的なバイオフィルム形成を促進させることを明らかとした。さらに,歯垢中から検出されるSCFAsである弱酸の酢酸や酪酸,プロピオン酸の混合物はA. orisの線毛依存的・非依存的な生菌の初期付着・凝集を促進させることも明らかとした。さらに,この現象には非解離型の酸が関係していることが示唆された。

  • 門田 珠実
    原稿種別: 総説
    2023 年 61 巻 1 号 p. 18-23
    発行日: 2023/02/25
    公開日: 2024/02/25
    ジャーナル 認証あり

    Helicobacter pyloriは胃疾患の原因細菌であり,経口感染すると考えられているが,感染メカニズムの詳細はいまだに解明されていない。これまでの研究においてH. pyloriは歯周病患者の口腔から多く検出された報告があることから,H. pyloriの口腔への定着は歯周病と関連しているのではないかと考えられている。そこで本研究では,39名の男女を対象として口腔内診査を実施した後,唾液サンプルおよび抜去歯を採取し,分子生物学的手法を用いてH. pyloriおよび主要な歯周病原性細菌10菌種の細菌DNAの検出を行った。その結果,H. pyloriが検出されなかった被験者と比較して,H. pyloriが検出された被験者は有意に深い歯周ポケットが認められ,Porphyromonas gingivalisの検出率も有意に高いことが明らかとなった。

    P. gingivalisの病原因子となるタンパクをコードする遺伝子fimAは合計6種類の遺伝子型が判明している。本研究で検出されたP. gingivalisのうち,H. pylori保有者におけるfimAH. pylori非保有者と比較してⅡ型fimAが多く発現していた。

    以上の結果から,Ⅱ型fimAを有するP. gingivalisが存在し,歯周状態が悪化した口腔内に,H. pyloriは存在しやすい可能性が示された。

原著
  • 坂見 嵯由里, 大谷 茉衣子, 浅里 仁, 加藤 ともみ, 中村 州臣, 木本 茂成
    原稿種別: 原著
    2023 年 61 巻 1 号 p. 24-34
    発行日: 2023/02/25
    公開日: 2024/02/25
    ジャーナル 認証あり

    当科の30年前の調査と比較して歯に外傷を受ける小児は増加している。そこでわれわれは,当科に口腔顔面領域の外傷を主訴に来院した小児患者の傾向の把握と,的確な対応法の検討を目的として,2016年から2018年の3年間に外傷を主訴として当科を受診した15歳以下の初診患者227名について実態調査を行った。

    1. 外傷を主訴に来院した患者は初診患者数の14.1%であり,初診時年齢は,乳歯の受傷では0~3歳,永久歯の受傷では7~9歳が多かった。

    2. 外傷の分類では,乳歯は脱臼が最も多く,永久歯は,脱臼と破折がほぼ同数であった。軟組織を損傷した症例では裂傷が最も多かった。

    3. 受傷歯の経過では,乳歯の17.7%,永久歯の18.5%に外傷歯の後遺症(口腔内の診察およびエックス線検査より変色,病的動揺,病的歯根吸収,根尖部透過像,後継永久歯への萌出障害を確認し,そのいずれかを生じた症例)を認めた。外傷の分類別の後遺症の発現率において乳歯では振盪が最も多く,永久歯では不完全脱臼が最も多かった。初診時の対応として,振盪では経過観察,不完全脱臼では整復・固定を行った症例が大部分であった。

    本調査の結果,乳歯の振盪に対しては経過観察を永久歯に交換するまで,また永久歯の不完全脱臼に対しては受傷後一年以上の経過観察が必要である。外傷を受傷した全ての患者に長期的な経過観察が必要であることを,歯科医療関係者や保護者のみならず,保育・教育関係者にも広く周知することが重要である。

  • 加藤 ともみ, 浅里 仁, 大谷 茉衣子, 坂見 嵯由里, 木本 茂成
    原稿種別: 原著
    2023 年 61 巻 1 号 p. 35-43
    発行日: 2023/02/25
    公開日: 2024/02/25
    ジャーナル 認証あり

    小児を取り巻く環境,特に保護者の歯科医療への要望の変化や地域の特性は,小児歯科医療に大きな影響を与えると考えられる。そこで,地域の医療機関と連携する大学病院としての役割を検討することを目的とし,2008年1月から12月までの1年間と2018年1月から12月までの1年間の初診患者の実態調査を実施し以下の結果を得た。

    1.初診患者数は,2018年では人数が減少したが,学童期の割合は増加した。紹介患者数は人数・割合ともに増加した。

    2.主訴は,両年ともに齲蝕治療関連が約40%を占め,次いで健診・齲蝕予防関連,外傷の順であった。

    3.居住地別主訴では,主訴の分布に大きな違いはみられなかったが横浜市の齲蝕治療関連が増加した。

    4.主訴別年齢では,3~5歳の齲蝕治療関連が増加した。

    5.紹介患者の主訴では,外科処置に関するものが増加した。

    6.授乳期の栄養方法では,母乳が最も多く両年ともに平均離乳開始時期は7か月であった。2018年において離乳完了時期は2008年よりも2か月遅かった。離乳完了期が18か月以降の栄養方法では,両年ともに母乳が最も多かった。

    以上の結果は,小児の健全な口腔の育成に寄与するためには,横須賀・三浦地域の初診患者の実態の経時的な変化を考慮することの重要性を示している。また,患者の生活に寄り添いながら,地域の医療機関と連携し,高次医療機関として専門性の高い歯科医療を提供することが当科の使命であるといえる。

症例報告
  • 阿部 洋子, 池本 博之, 林 久恵, 小佐々 康, 田中 秀和, 原田 京子, 有田 憲司
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 61 巻 1 号 p. 44-53
    発行日: 2023/02/25
    公開日: 2024/02/25
    ジャーナル 認証あり

    患児は10歳8か月の男児で,上顎左側犬歯の異所性埋伏により隣接する側切歯と中切歯に歯髄腔に及ぶ重度の歯根吸収と動揺を認めた。埋伏犬歯の歯小嚢の厚さは3.5 mmで含歯性嚢胞化しており,犬歯の尖頭の位置は上顎左側中切歯歯根の遠心側1/2に及び,近心傾斜角度は26.5°であった。上顎左側側切歯は歯根長の1/2以上が吸収されており,左側中切歯の歯冠―歯根長比は4:3で,健側の右側中切歯の歯根長の64%であった。左側の下顎側切歯が先天欠如であったため,重篤な歯根吸収を呈した側切歯を抜去し,中切歯の遠心側に犬歯を萌出させるという治療方針を立てた。残存乳犬歯および側切歯の抜去により,埋伏犬歯は12か月後に中切歯の遠心歯列内に自然萌出し,歯軸も自律的に改善した。同時に,犬歯尖頭が中切歯歯根から離れることによって中切歯の歯根吸収は停止し,歯槽骨の再生が生じ,動揺は消失した。

    抜歯2年8か月後の歯科用CBCT画像から,保存した上顎左側中切歯の歯根全周に歯槽硬線が確認され,歯根吸収によって露出していた根管は,根端部の象牙質の形成により狭窄し,根尖孔が観察された。

    本症例において,異所性埋伏犬歯により重度に吸収された永久切歯は,その原因を除去することにより長期的予後は良好となる可能性が示唆された。しかし,加齢に伴い歯根吸収した切歯の動揺度が増加する可能性があるため慎重な口腔管理が必要であると考える。

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