抄録
外傷性嵌入は乳歯列では高頻度に遭遇する受傷様式であるが,永久歯列においては比較的稀である。本症例では,8 歳3 か月児の外傷によって嵌入した上顎右側中切歯に対して牽引処置を施術し,その後3 年8 か月間にわたる経過観察を経験したので報告する。外傷性嵌入の予後に寄与する主たる因子として,文献的には「歯根の発育度」と「嵌入量」が挙げられる。本症例の受傷歯は嵌入量が5~6mmの根未完成歯であった。Royal College of Surgeons of England のガイドラインにしたがって,まず自然な再萌出を期待して3 週間経過観察した。しかし,自然萌出の傾向が全く見られなかったため牽引処置を施術したところ,38 日後に反対側同名歯と同レベルまで再萌出した。受傷から3 年8 か月経過した現在では,反対側同名歯と比較すると歯根長がやや短く,さらに歯髄腔狭窄を認めるものの,進行性の歯根吸収,歯髄壊死や根尖性歯周炎等の発症は認めない。また明らかな辺縁骨吸収も認めず,良好な結果が得られた。根未完成により歯根膜組織と歯髄との接する面積が大きいため脈管再生が生じやすく,また,根未完成期の歯槽骨は比較的弾性に優れており,そのために歯周組織への損傷が減じられた可能性も推察される。治療方法の種類に関わらず,外傷性嵌入歯は長期間にわたって定期的に臨床所見の確認とエックス線検査を実施し,歯根吸収,骨癒着,歯髄腔狭窄,歯髄壊死等の合併症を早期発見し,早期対応する必要がある。