抄録
歯科臨床において,刷掃指導を行う機会は非常に多いにも関わらず,これまで刷掃動作そのものの指導や評価のための指標は確立されていなかった。そのため我々は過去に,刷掃時の歯ブラシの動きに着目し,刷掃の際に生じる固有運動リズムが動作の指標となり得ることを示した。しかしながら,刷掃動作は口腔に対する上肢の細かい協調運動により成り立つ。よって,固有運動リズムの成因と上肢の細かな動作調節を明確にし,刷掃動作の評価,指導,教育をより客観的かつ,根拠に基づいたものにする必要がある。本研究では被験者の運動情報を時系列の3 次元座標値として取得することが可能な高精度モーションキャプチャシステムを用い,歯科衛生士が歯を刷掃する際の上肢の動きを記録した。得られた数値から,歯ブラシの往復運動を遂行する際に生じる,肩部,肘部と手首部の関節の角度変化を算出して,刷掃動作に伴う上肢の動きを定量的に評価し,以下の結論を得た。1 .歯科衛生士の刷掃動作の特徴として,上顎臼歯部頬側の刷掃時は,両側ともに上肢の全ての関節が同調しながら運動していた。2 .刷掃動作時,各関節は協調しながら細かな運動調節を行っており,上顎右側臼歯部頬側刷掃時は肩部と手首部が,左側では手首部が,その調節を担っている可能性が示唆された。3 .刷掃動作時,両側いずれの場合も,肘部は細かい運動の調節ではなく,安定した運動を営むことで,固有の運動リズムの発生に関与している可能性が示された。