乳歯列から永久歯列へ変化する過程で,包括的かつ適切な口腔管理を行うことにより,骨格系,咬合系の不正を未然に防ぎ,良好な咬合を確立することが重要である。よって,顎顔面の成長発育に伴う正常な顎骨の成長と歯軸の傾斜の関係を理解することは,良好な咬合を確立する上で必要不可欠である。成長に伴う顎顔面領域の形態変化を客観的に評価する際には,頭部エックス線規格写真と歯列模型が用いられる。それぞれは単独で評価されているのが現状であるが,顎顔面部の成長発育および咬合の変化は,歯列と顎骨形態に密接な関係があり,その変化は3 次元的なものであるため,頭部エックス線規格写真と歯列模型を同じ座標系で分析することが望まれる。そこで,両者を同一座標系に統合するシステムを構築し,各歯のFH 平面に対する前後的傾斜角度を,乳歯とそれぞれの後継永久歯で比較した。その結果,矢状面において上顎歯の傾斜角度は乳歯と後継永久歯で有意差がある部位が多かったのに対し,下顎歯ではほとんど差が認められなかった。また,乳臼歯に比べ,大臼歯では上下の同側同名歯に平行性が認められた。本稿では,これらの知見に基づき,乳歯と永久歯の歯軸の類似と相違が生じる原因となる,顎顔面領域の形態および機能的要因について検討する。