2024 年 62 巻 3 号 p. 63-69
近年,小児在宅・訪問歯科診療の必要性が認知されつつあるが,実際の受診患児数は少なく,他職種との連携も十分ではない。本研究では,当院における小児在宅・訪問歯科診療の実態を調査し,その有用性と課題について検討した。対象は2019年5月から2023年9月までの間に当院の小児在宅・訪問歯科診療を受けた患児52名とし,診療録に基づいて患児背景,診療内容,転帰について後方視的に検討した。52名のうち,初診時年齢2歳以下が33名,超重症児・準超重症児が21名,歩行不可が33名,医療的ケア児が40名であった。小児在宅・訪問歯科診療の依頼ルートの多くは訪問看護師からの紹介であり,保護者の受診契機の多くは訪問看護師からの受診勧奨であった。在宅・訪問診療内容は,口腔衛生管理や齲蝕予防,乳歯の抜去や削合など多岐に渡っていた。転帰は,42名が当院の定期受診を継続し,そのうち31名は訪問継続,11名は通院移行であった。
今後,小児在宅・訪問歯科診療を推進していくためには,他職種との連携システム構築や,歯科医療従事者間の知識と技術の共有が必要不可欠であると考えられた。また,今回の小児在宅・訪問歯科診療において歯科疾患の予防や永久歯への交換など,成長発育を伴う小児期特有の専門性が求められる処置も多かった。このことから小児歯科専門医が地域での小児在宅・訪問歯科診療の中心的な役割を担うことが期待される。