抄録
幼若永久歯の外傷は,臨床でしばしば経験する。しかし,外傷で脱落した歯牙の歯槽内に,歯根の形成を観察した報告はないようである。
症例1:外傷により,歯根未完成の上顎右側永久中切歯が脱落した後,その歯槽内に,X線学的および組織学的に歯根の形成をみた。歯肉内に埋伏した歯根は,徳利状の外形を示し,通常の象牙質,セメント質の他,円筒状の象牙粒,副根管様の小管,そしてセメント質様組織が観察された。この歯根は,歯冠側では局部床義歯による咬合圧も関与した形成異常が,そして根尖側ではHertwigの上皮鞘による通常の形成が示唆された。
症例2:外傷による上顎左側永久中切歯の完全脱臼の再植例において,再植歯の根端部のやや上方に,経年的なX線観察により歯根様硬組織の形成をみた。これは症例1の根尖側の形成と同様で,歯根の一部と考えられた。