著者らは, 咬唇癖の著しい6 歳男子の下口唇に発現したM u c o c e l e に遭遇した。疹痛などの自覚症状がないため,初発より3カ月間放置しており,自潰,再発を数度重ねていた。処置としては全摘出を行い,本疾患の誘因と考えられる咬唇癖を改善するよう患児および母親に徹底して指導した。一方,摘出物を病理組織学的に検索した結果,著明な炎症性反応がみられ,肉芽組織の増殖所見もあることから,粘液肉芽腫型Mucoceleと確定診断を下した。このタイプのMucoceleは,唾液腺排泄管が閉塞したために生ずる,いわゆる貯留型Mucocceleに比べ,発現頻度はかなり高く,その成因としては排泄管の損傷により粘液が周囲組織へ溢出するためと考えられている。それゆえ外傷との関連性は高く,本症例においても咬唇癖は口唇腺組織に慢性刺激を与えていたようである。術後10カ月経過する現在,咬唇癖は治り,再発は認められず口唇麻痺などもなく予後は良好である。