抄録
低位乳臼歯5症例10歯を経験し,後継永久歯との交換まで経過観察を行った。症例の初診時年齢は,2歳1カ月から11歳4カ月である。経過観察期間は,1年から10年であり,なお,観察に用いた資料は,病態写真・X線写真・石膏模型である。
結果:
1)発現状況に性差はなかった。
2)歯種は,D,E各4歯,D,E各1歯であり,下顎に多かった。
3)発現に左右対称性のみられたのは1症例のみであった。
4)咬合状態は不正咬合が多かった。
5)後継永久歯はすべてに存在していた。
6)経年観察では5歯中,2歯で低位の状態が増強し,3歯で減弱した。低位増強の大きな要因は,隣接歯からの圧力と考えられ,逆に,減弱の要因は,後継永久歯の萌出力の影響と思われた。
7)低位歯10歯中5歯は自然脱落し,4歯は脱落寸前で容易に抜歯された。1歯は便宜抜去された。
8)後継永久歯との交換は正常に行われた。
これらの結果から,低位歯の処置としては,低位の程度が軽度の時は経過観察し,中等度の時は保隙装置,あるいは接触点の保持のための修復,高度の時は,隣接歯の状態によりspace regainingをそれぞれ行うのが妥当と考えられた。