抄録
乳歯の歯根吸収の機序について,生化学的な解析を加えるために,自然脱落間近のヒト乳歯歯根吸収組織より細胞の分離および継代を試みたところ,培養開始約3日後より,組織片周囲から紡錐形およびサイコロ状の細胞のout growthを認めた。継代を行うと,しだいに同一の形態を示す細胞群となり,歯嚢由来と考えられる間葉系細胞と,エナメル器あるいは口腔粘膜上皮由来と考えられる上皮細胞の集団を得た。これらの細胞群はすべて20代以上継代可能であったが,15代を越えるとやや増殖能が低下し始めるため,8-13代目の安定した増殖能を示す細胞を実験に供することとした。
次に,これらの細胞の増殖に及ぼす上皮成長因子(EGF)の影響について検討した。その結果,EGFは,歯根吸収組織より分離された間葉系細胞および上皮細胞のDNA合成能をともに,著明に促進することが示された。このことはEGFが,乳歯の歯根吸収および自然脱落の過程に関与することを示唆していた。