抄録
咀嚼の生理的意義について,検討をすすめるうえで,今回は,咀嚼が唾液腺の発達に及ぼす影響について検討した。実験は,離乳直後の雄マウスを,同一成分の固形食あるいは練食で飼育し,その両群で,耳下腺,顎下腺および舌下腺の発達を比較した。
その結果,練食群では,とくに耳下腺および顎下腺の,離乳後の重量増加が低下すること,DNAとRNA含有量の増加が低下することが示された。また,耳下腺の組織中アミラーゼ活性も低い値を示した。
次に,耳下腺および顎下腺のポリアミン代謝についても比較を行ったところ,ポリアミン合成の律速酵素であるオルニチン脱炭酸酵素(ODC)とS-アデノシルメチオニン脱炭酸酵素(SAMDC)の活性が,練食群では低い値を示し,また,主要なポリアミンのうちプトレッシンとスペルミジンレベルが低い値を示す傾向が認められた。
これらの結果は,咀嚼が,耳下腺および顎下腺の細胞増殖や分化に重要な影響を及ぼすことを示唆している。