1990 年 28 巻 3 号 p. 623-629
歯科治療に対する協力度が低いために通常の歯冠修復処置が困難な患児を対象として,齲蝕進行抑制処置,第一段階および第二段階の暫間修復などを協力程度に応じて行い,患児の良好な協力が得られるのを待って最終的に通常の修復に至る段階的歯冠修復法を試み,暫間修復に用いたグラスアイオノマーセメントの耐用性ならびに患児の協力程度の推移について検討した.
その結果,本研究で用いた二種類のグラスアイオノマーセメントの有効経過期間は協力度の推移に要する期間よりも長く,これらのセメントは乳歯の暫間修復材として実用性のあることがわかった.しかし破折や脱落による再修復率が高く,段階的歯冠修復法の有効性を向上させるためにはセメントの初期硬化時間の短縮や初期感水の防止策を構じる必要がある.患児の協力度の推移は,第一段階の暫間修復から始まって最終修復が可能になるまでに21ヵ月を要した.また,低年齢期から患児の発達段階に応じて処置を進めると,高年齢から管理を始めた場合よりも通常の歯冠修復処置に対する協力度が早く向上した.
以上の結果から,グラスアイオノマーセメントを利用した段階的歯冠修復法は非協力患児の取り扱いという見地から長期的な行動変容技法に基づく有効な方法であると考えられる.