抄録
我々は,口腔習癖を有する小児4人を対象に,筋機能訓練を指導し,それと並行して, 口唇圧計測システムを用いて安静時および嚥下時の上口唇圧( 坐位, 仰臥位) を, また,ばね秤を用いて口輪筋の強さを計測し,口唇圧と筋機能訓練,口唇圧と口輪筋の強さの関係を調べた。それに加えて,嚥下時口唇圧計測と同時系列で口輪筋の筋活動を表面電極により導出し,両者の関係についても調べ,以下の結果を得た。
1)安静時上口唇圧の平均値は,訓練開始前で1.23g/cm2(坐位),1.59g/cm2(仰臥位)であり, 訓練開始後3 カ月で1.77g/cm2 (坐位),1.93g/cm2 (仰臥位) であった。安静時においては,対象小児4人のうち3人に上口唇圧の増加傾向が認められた。
2)嚥下時最大上ロ唇圧の平均値は, 訓練開始前で4.35g/cm2(坐位),2.18g/cm2(仰臥位)であり, 訓練開始後3 カ月で8.38g/cm2(坐位),9.28g/cm2(仰臥位)であった。嚥下時においては,対象小児全員に上口唇圧の増加傾向を認めた。しかし,嚥下時の口唇圧の圧波形および最大口唇圧には著しいぱらつきを認めた。
3)口輪筋の強さは,筋機能訓練により増加した。しかし,口唇圧の変化と口輪筋の強さの変化には,一定の相関関係は認められなかった。
4)計測された上口唇圧が,口輪筋の筋活動を反映したものであることが示唆された。
5)健常成人と比較して,対象小児の嚥下における口唇圧と口輪筋の筋活動との間に時間的ばらつきを認めた。これは小児の嚥下における筋の調和がまだ不十分であることの現れであると推測された。