小児歯科学雑誌
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乳歯外傷により後継永久歯の歯根形成が 障害されたと考えられる一症例
谷地田 知子米持 浩子野田 忠鈴木 誠
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1995 年 33 巻 1 号 p. 179-186

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抄録
乳歯が外傷を受けた場合,乳歯の歯根と永久歯胚は近接しているため,その衝撃は後継永久歯に容易に伝達されると考えられる. 私たちは本学小児歯科外来において,先行乳歯の外傷が原因で,後継永久歯の歯根形成が障害されたと考えられた症例を経験したので,その経過を病理組織学的所見とともに報告する.
患児は5歳9か月時に約2mの高さから転落し,上顎の左側乳中切歯は完全脱臼,右側乳中切歯は切縁を約1mmほど残して陥入した. 右側乳中切歯は経過観察としたが,7か月後に自然脱落した. 7歳0か月の定期診査時,上顎の左側永久中切歯はほぼ完全に萌出していたが,右側永久中切歯は未萌出であった. エックス線写真では,右側永久中切歯の歯根は歯頸部中央から遠心にかけて斜めにわずかに形成されていたが,左側永久中切歯の歯根より明らかに短かった. その後右側永久中切歯は開窓され,ほぼ完全に萌出した. 歯冠の形態・色調に異常は認められず,エックス線写真では右側永久中切歯の歯頸部遠心側に歯髄腔を伴った細い歯根の伸び出しがみられた. 8歳9か月時,友人と衝突して右側永久中切歯が歯頸部で破折したため,同歯を抜去した.
抜去した右側永久中切歯はほぼ歯冠部のみで,その病理組織学的所見は次のとおりである. 歯冠部象牙前質の内側に,異型象牙質や有細胞セメント質などが形成され,歯髄腔が狭窄していた. また,歯頸部口蓋側付近の異型象牙質の中に,正常な歯根象牙質と思われる組織がみられ,外傷による機械的な力により形成途中の歯根が歯冠方向に折れ込んだと考えられる所見がみられた.
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© 一般社団法人 日本小児歯科学会
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