抗生物質の有効性を検討する上で,指標となる血中濃度を,唾液中濃度から推測することが可能であるかどうかを確かめる目的で,新規マクロライド系抗生物質クラリスロマイシンを用い,基礎実験ならびに臨床的検討を行った. 基礎実験は,健康成人11名を対象に,Bioassay法により,血中濃度と唾液中濃度の測定を行い,両者の関連性を検討した. また,臨床的検討は,本学小児歯科外来を受診した患者40名の歯科口腔領域を対象とした. その結果,次のような結論を得た.
1)基礎実験において,クラリスロマイシンを経口投与した結果,Cmaxは血中濃度1.34μg/mlに対して,唾液中濃度1.44μg/mlであり,血中濃度と唾液中濃度は,ほぼ類似した体内動態を示し,唾液中への良好な移行性を示した.
2)感染予防症例の10名に対して,実際の作用部位である抜歯創貯留血中濃度と,唾液中濃度を測定した結果,両者の値は同程度であった. さらに服用後40分までの症例から2時間30分までのどの症例においても,血中濃度ならびに唾液中濃度は,すべてMIC値0.39μg/ml以上の値を示した.
3)小児における臨床的検討の結果,評点判定,主治医判定ともに,歯性感染症例では,顎炎,歯周組織炎とも,100.0%,歯冠周囲炎は75.5%であり,感染予防症例では,全体で,96.2%と高い有効率が得られた. なお,副作用の発現は1症例のみであった.
以上の結果から,クラリスロマイシンの唾液中濃度を測定することによって,血中濃度を推測することが可能であり,しかも本薬剤は,小児の歯科口腔領域における感染症ならびに感染予防に有効かつ安全な薬剤であると考えられた.
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