抄録
本研究では,口腔感覚入力による吸啜運動の反射性制御の解明を目的として,乳児および成人を対象とした筋電図学的実験を行った。
乳児において,授乳中に乳汁流出量を変えて,咬筋と舌骨上筋群の筋活動と吸啜周期の変化を記録した。その結果,乳汁の流出量が多くなると咬筋と舌骨上筋群の活動はともに増強し,運動周期はやや延長した。次いで,成人に吸啜運動を模倣させたところ,筋電図とエックス線テレビの観察から,筋活動ならびに舌運動はともに乳児の吸啜運動中のものに類似していた。さらに,成人での乳汁流出量と運動変化の関係も乳児と同様の結果であった。
そこで成人に局所麻酔を行って,口腔感覚と吸啜運動との関係について実験的解析を行った。成人の上下顎前歯歯根膜,口蓋粘膜全体,および上下口唇粘膜に浸潤麻酔を行い,麻酔前後の運動を比較した。その結果,口唇と口蓋の麻酔後には,吸啜様運動中の舌骨上筋群の活動量が減少し,口唇麻酔後には咬筋の活動量が増加した。
乳汁量の多寡に応じて,また局所麻酔により吸啜(様)運動中の筋活動が変化したことから,吸啜運動が口腔内感覚情報によって反射性に調節されていることが示唆された。とくに,吸啜時に強く活動する舌骨上筋群に対して,口蓋ならびに口唇からの感覚情報が促通性に筋活動を調節していると考えられた。