ヒト乳臼歯髄室床部の組織構造および副根管の状況を解明する目的で,小児頭蓋骨から得られた乳臼歯76歯を用い,連続切片標本により組織学的観察を行うと共に,コンピューターの画像処理により髄室床部の組織構造の観察および副根管の大きさの計測を行い,コンピューターの三次元的構築により副根管の走行形態を観察した。また,歯根未完成乳臼歯と歯根完成乳臼歯との相違を比較し,加齢的変化を究明した。
1)歯根完成乳臼歯髄室床部には,2層構造が認められたが,歯根未完成乳臼歯髄室床部には,上層象牙質は認められなかった。歯根完成乳臼歯髄室床部の厚径は,歯根未完成乳臼歯のそれより有意に大きかった(p<0.01)。
2)乳臼歯髄室床部すべてに副根管が認められた。歯根未完成乳臼歯と歯根完成乳臼歯との間に,副根管の発現歯数と発現個数には統計学的有意差は認められなかった。
3)副根管の走行形態を1~4型に分類した。歯根完成乳臼歯より歯根未完成乳臼歯において交通型副根管(3型)が有意に多かった(p<0.01)。
4)副根管の長さおよび内径については,歯根未完成乳臼歯と歯根完成乳臼歯との間に,有意差は認められなかった。交通型副根管(3型)の長さと内径はともに,非交通型副根管(1,2,4型)より大きかった。また,細い副根管より太い副根管の方が長く走行する傾向が認められた。
5)副根管の形状については,管状と珊瑚状の2種類が認められ,管状副根管の方が多かった。