抄録
線維芽細胞の増殖能に対する神経成長因子の役割を解明する目的で,ニューロトロフィンであるnerve growth factor-β(NGF),brain-derived neurotrophic factor(BDNF),neurotrophin-3(NT-3),さらにはinsulin-like growth factor-I(IGF-I)の影響について検討を行った.血清の有無にかかわらずNGFを48~72時間反応させた場合には,線維芽細胞の増殖能に著明な変化はみられなかった.同様にBDNFおよびNT-3についても血清の有無にかかわらず,細胞の増殖能に明確な変化は観察されなかった.
一方,IGF-Iを添加したところ,血清非存在下では,反応48時間後では100ng/ml濃度においてのみ細胞増殖能が増加したが,72時間後の時点ではIGF-I濃度依存的な増殖能の増加がみられた.
一方,血清存在下では反応48時間後の時点では細胞増殖能の増加が認められたが,72時間後ではこの変化は消失していた.さらに,IGF-Iは血清非存在下において,グルタチオン涸渇剤あるいは抗癌剤であるビンクリスチンによる線維芽細胞の細胞死をいずれも少なくとも一部減弱させた.
以上の結果より,NGF,BDNFおよびNT-3は線維芽細胞の増殖能には変動を与えないが,IGF-Iは増殖能を亢進させる可能性が示唆された.