小児歯科学雑誌
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Nested PCR-リアルタイムPCR法による小児混合唾液中HSV-1の検出
生田 剛史中村 均
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2004 年 42 巻 5 号 p. 615-622

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抄録

HSV-1は,新生児ヘルペス,ヘルペス性角膜炎,ヘルペス性脳炎,口唇ヘルペスなどを引き起こす病原微生物として知られている。小児歯科外来においても,しばしば,顕性なHSV-1の初発感染症状として疱疹性歯肉口内炎に遭遇する。一方,回帰発症の症状として青年期以降においては口唇ヘルペスなどが観察される。過去の報告にHSV-1症状消失後も唾液中へHSV-1が無症候性排泄されているというものがあり,唾液中に微量であったとしてもHSV-1が検出されることは,常に唾液に触れながら多くの小児の口腔内を触れる小児歯科医にとって感染を起こす危険性を含んでいる。そこで最近の小児期におけるHSV-1の潜伏の有無の状態を知り,HSV-1感染者が減少傾向にあるか否かを知ることは,時に重症化する疱疹性歯肉口内炎への診断,治療,予後を含めた対応を行う小児歯科医にとって極めて重要である。しかしながら,唾液中のHSV-1の検出率を向上させた検査法を用いて小児期における年齢別の潜伏感染状況を検討した報告は認められない。そこで,著者らは今回の研究を行った。
微量なHSV-1DNAの検出率を向上させるNested PCR-リアルタイムPCR法を用いて3歳6か月から12歳5か月の健康小児における唾液中HSV-1の検出率を検討した。各年齢群のHSV-1の検出結果は,3歳6か月-4歳5か月児においては4.2%,4歳6か月児-5歳5か月児においては21.2%,5歳6か月-6歳5か月児においては35.1%,6歳6か月児-7歳5か月児においては26.7%,7歳6か月児-8歳5か月児においては73.1%,10歳6か月児-11歳5か月児においては76.7%,11歳6か月児-12歳5か月児においては84.4%であった。各年齢群におけるHSV-1検出状況が一定かどうかX2検定を用いたところ危険率0.1%において有意に一定ではなかったことから,各年齢群においてHSV-1検出率に違いが有ることが明らかとなった。なお,男女別の検出結果は,男女比は0.9:1.0であり,有意差は認められなかった。従来2歳未満の低年齢児においてHSV-1に初発感染し,稀ではあるが疱疹性歯肉口内炎が発症すること。さらに低年齢児での発症は重症であることがいわれていた。しかし,本研究結果から低年齢児の検出率は少なく,学校生活が始まる7歳ごろから急激に検出率が増加していることから重症な疱疹性歯肉口内炎は減少するが,低年齢児での非感染者が多いことが示唆されており,疱疹性歯肉口内炎に罹患した患児が来院した際に感染させない配慮が必要であることが明らかとなった。

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© 一般社団法人 日本小児歯科学会
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