抄録
口腔細菌叢はグラム陽性球菌であるレンサ球菌が圧倒的多数を占める。これらの細菌群は,齲蝕の原因菌となったり,歯科疾患あるいは歯科処置に引き続いた敗血症・感染性心内膜炎の原因菌となったりする。こうした細菌の集合体がデンタルプラークというバイオフィルムであり,上記の疾患の温床となっている。したがって,デンタルプラークの形成機構の解明や,デンタルプラーク中の細菌を同定したりすることは臨床上意義がある。そこでこれらの目標を達成するために,プラーク形成に関与するレンサ球菌が産生する分子,とくにスクロースを基質としてグルカンを合成する酵素グルコシルトランフェラーゼの分子生物学的研究を行った。また口腔細菌叢の調査を行うツールとして口腔レンサ球菌のgtf遺伝子および16 S-23 SrRNA intergenic spacer遺伝子の多型性領域を利用した迅速なPCRによる菌種同定法を開発した。さらに4種のハウスキーピング遺伝子の遺伝系統学的解析を行い,これに基づいたより正確なレンサ球菌分類法を確立した。